悪夢の様な日々から解放されたスコットは、少し伸びていた美しい金髪を短くカットして、新しいスーツに身を包み、化粧室の大きな鏡でネクタイを整えました。
いつも、チャーリーが専属の理容師でした。
「お似合いですよ!」
久しぶりに、スコットの笑顔が鏡の中で輝いて見えました。
「チャーリー・・・。
今夜は、飛びっきりのシャンペンを頼んだよ!」
「はい!
お任せ下さい」
チャーリーの瞳の中で、はにかんだ様なスコットの笑顔が、輝きながらいつまでも揺れていました。

あともう少しでマチルダが帰って来る。
今にも・・・。
モンタギューの森を駆け抜ける、マチルダのバイクの音が聞こえてきそうでした。
春らしい淡い青い色のスーツとスコットの青い瞳が、喜びに溢れ躍りながら軽い足取りで階段を駆け下りました。
「ママ!
マチルダがもう直ぐ帰って来る!」
居間のテーブルに花を飾り付けていたエリザベスが、振り返りながら優しく微笑みました。
「アァ~・・。 スコット・・・」
スコットはエリザベスを抱き締めて、柔らかなピンク色の頬にキスをしました。
「幸せになってね。
ママは、静かにあなた達を見守るだけだわ」
「ありがとう ママ!
きっとママも幸せになれる!」
エリザベスの上品な緑色のドレスと、胸のシンプルなパールのネックレスは、温もりと優しさを感じる美しい母の装いでした。
きっと、これからも若い恋人たちを、優しい眼差しで見つめてくれるはずです。
スコットの心は喜びで打ち震え、高まる胸の鼓動が全身を駆け巡り始めました。
ハートよ
そんなに喜ばないでくれ
マチルダに悟られないように
静かにしていて欲しいんだ
生意気な瞳が 二度と
妖しく輝かないように
あの甘い唇で 再び
僕を打ちのめさないように
マチルダの優しい愛が
真っ直ぐに僕に届くように
お願いだから
ジッと静かにしていてくれ


マチルダと初めて出会ったモンタギューの池までの道のりを、高まる心臓の音を聞きながら歩きました。
約束の場所は、二人の神聖な誓いを見守るように深い緑で覆われていました。
スコットが大きな水しぶきと共に落っこちた池も、今は静かにその水面を輝かせて、二人の門出を祝福しているようでした。
スコットは前と同じように倒木に腰掛けて、手に持った真新しいスケッチブックを開きました。
風に乗って・・・
その音は、とっても静かに近づいて来ました。
荒々しくけたたましい音ではなく、小鳥達は何事も無い様に歌い戯れていました。
スコットは胸の鼓動を抑える為に、祈るように両手を胸に押し当てました。

