~お気に入りの青いドレス~
真冬の盛りだと云うのに、街中が暖かな日差しに包まれていました。
一週間前に降り積もった雪が解けて、公園のベンチでは恋人たちが愛を語り合っていました。
依然として、凍てつく北風も白い雪も、空から舞い降りて来る気配はありませんでした。
人々は不思議そうに空を見上げて言いました。
「雪の、女王は何処へ行ってしまったのだろう?」
雪の女王は人間世界の冬をつかさどり、その事だけを考えていれば良かったのです。
今までは・・・。
スコットの歌声に心を奪われてしまった今、初めて知った心の迷いに戸惑い苛立っていました。
銀色に輝く宮殿に響き渡っていた優美な歌声が消えてから、一週間が経とうとしていました。
女王は宮殿から一歩も出る事はありませんでした。
「この思いは何処からやって来たのだ?
私を支配する異物はいったい何なのだ?」
女王は自問自答しながら、裾の長い青いドレスを引きずりながら、広間を歩き回っていました。
それはやがて、不安と言う感情をももたらし、その不安を取り除く為にも、自ら進んで宮殿の一番高い尖塔の一室を訪れました。
スコットはベッドに横たわり、ギターのコードを指でおいながら、窓の外の暗黒の世界を眺めていました。
しかし、女王の訪問に気づくと、シーツを頭からスッポリと被ってしまいました。
それでも女王は、その威厳を保つ為に、心の奥を悟られない様に、シッカリと腕を組み上目線でスコットを見下ろしました。
「スコット!
私が玉座を降りて、わざわざやって来たのだ。
少しは礼を尽くすものだ!」
スコットはあの日以来言葉さえ発するのを止めてしまいました。
約束通り安らかな眠りは保障され、スコットの夜は何事もなく過ぎて行きました。
それだけ、雪の女王の約束は絶対的なものでした。
女王は心の不安から解放されんとばかりに、その威厳を自ら捨ててしまいました。
そしてまたしても、言ってはいけない言葉を並べ立ててしまいました。
「もう二度と・・・、お前の心を奪い取るとは言わない!
約束しよう。
お前を傷つけるつもりはなかったのだ。
ただ・・・、失いたくないのだ。
ただ・・・、それだけなのだ」
女王は懇願する様に、ベッドの縁に力無く腰掛ました。
「お前にあって、私に無いものが、いったい何なのか私には分からない。
なぜ私達の孤独に違いがあるのだ・・・?」
女王のただならぬ雰囲気に、流石のスコットも被っていたシーツを、鼻の下まで降ろして青い瞳を覗かせました。
目の前には、美しい青いドレスを身に着けた、雪の女王の姿がありました。
金髪の長い髪、青い瞳、透き通る様な白い肌に、青いドレスが際立って眩しく輝いていました。
あまりの美しさに、スコットは思わず息を呑み、ベッドに座り直しました。
「貴女は・・・」
女王は、スコットの輝く青い瞳を見つめながら言いました。
「お前の好きな青いドレスを身に着けて来たのだ」

