木下恵介監督作品。主演は稀代の大女優・田中絹代。
昭和19年の作品だというから、タイトルからもお察しの通り「戦意高揚映画」である。
当時、戦意を高揚させる映画でないと検閲に引っ掛かった。
一般の映画でもそうなのだから、いわゆる「戦争もの」と言われるものたちは統べからくそうである。「反戦映画」など存在しない。
そんなものは上映されないし、それどころか当局にボッシュートされ存在すら掻き消される。
だから映画会社もそんなことに無駄な金を出す訳がないし、もしそんな脚本を書くやつがいたら総スカンである。非国民。
しかし、そんな映画があるのである。
やつらの目を掻い潜り、今でも存在している。そして、この先も存在し続ける。
その1つがこの『陸軍』である。
このブログを読んでもらった方には是非映画をご覧になって頂きたいので、内容まではここに記さない。
ただ強調しておきたいのは、これは「反戦映画」だということだ。
何度も言うようで恐縮だが昭和19年の時点でこの日本に「反戦」はあり得ない。そんな映画が存在するはずがない。作品も関係者も全て抹殺されているはずだからだ。
ということは、この映画は検閲を通過したということだ。その時代の人々には「戦意高揚」と受け取られたのである。
それを念頭に置いて是非ご覧頂きたい。
言葉が全て、逆の意味に取れるから。
いや、言葉だけではない。表情や仕草の全てに二重の意味がある。
冒頭だけ。冒頭だけは我慢して頂きたい。何分古い映画であるから録音の状態が芳しくなく聴き取りづらい。
それに作劇的にも、いきなり幕末の戦乱模様からの幕開けなので取っ付きにくい。
そこは我慢して頂いて、我慢できなかったら無視してもいい。観てればその内分かるから。
そしてラストは涙が止まらないから。