母の病を知って

3年



最初に聞いたときは

世界が崩れ落ちそうになり


私はただ必死で壁をつかみ

自分で自分を支えていた



やっぱり


いつかこうなるような気がしていた


いつかはこうなるだろうと

どこかで分かっていた


母の生き方を見ていたから

自分で自分を追い詰めていく

母の生き方を



だから、

もう母は戻ってこないかもしれない

母にはこの世界は辛すぎるから



1度目の手術の最中

吹き荒れる嵐を見ながら

私はぼんやりそんなことを考えていた


けれど、嵐が止んで

雲間から光が射してきた頃



咲いたばかりの花のようにやわらかく

美しく輝いて


母は戻ってきた


もう一度


この世界に



私は、

帰ってきてくれて
ありがとう


と言った



母は、

迷ったのだけど


まだ、私は楽しむことをしてなかった

そのことを思い出したの



そう言って眩しく笑った


幸福と喜びが


甘く香ってくるような笑顔だった


あぁ、病とともに

母は何かを手放したのだ



病は母の溜まった悲しみや苦しみを

集めて自らに引き受けて

そして去っていったのだ



私は、感謝した


そしてどうか


母がもう元のように戻らないように…

自分を追い詰めるように生きませんように


そう願った




けれど

母にはまだ必要としているものがあったのだろうか


孤独の中で

苦しみは繰り返されてしまった



母の病は再発し

転移し

2度目の手術も虚しく


みるみるうちに病は
母の身体を覆っていった



何故だろう


これは何かの罰なのだろうか



最初は何とか治そうとしていた私


自然療法や食事療法を調べ

あれこれと持ち込んでは

母も必死で続けていた



きっと治る

病は解毒すれば

きっと治る


そうイメージすれば

きっと治る



東京から実家に通い

病院に付き添い

気功に通い


祈ってきたけれど



母の病は止められず


病状の進行を残酷に告げられる日々


母も私も家族も

だんだん疲れていった



信じることは、
なんてエネルギーがいるのだろう



信じることが、
怖くなった



失望するのが怖いから




それから、諦めたように、
母が死に向かっていることを
少しずつ受け入れようとするようになった



母がこれまでしてきてくれたこと

母がいなくなった後の私たち


過去や未来に想いを馳せ


不安と共に
無限に湧き上がる母への想いに

涙があふれた



もっと一緒に出かけたかった

旅行に行きたかった


花嫁姿を見せたいのに


私の子どもを抱いてほしいのに



あなたと


生きる喜びを分かち合いたいのに



この世界に生まれてきた


喜びを




そしてこんなに母のことを想っている
自分に驚いた


決して仲の良くなかった私たち


私は母から離れたくて

少しでも早く自立したくて


故郷を離れ

1人で生きていこうとしていた


母の愛を受け取ることをおそれ


ずっと拒んできた


けれどいま


こんなにまっすぐに母の愛を受け取れる

そしてまっすぐに母への愛を伝えられる



私たちはこんなにそばにいる


奇跡のように触れ合い
抱きしめ
この時に感謝して
からだいっぱいに溢れてくる愛おしさに
ただ涙する


これだけで
こんなに幸せになれるなんて


こんな風にあなたと一緒にいられるなんて


私は、知らなかった



それは間違いなく


病がもたらしてくれたもの

授けてくれた時間

教えてくれたこと




ずっと長い間


母が生に向かっていると思えばいいのか

死に向かっていると思えばいいのか


それに混乱していたけれど



いま、母は死を見つめながら

必死でこの時を生きている



死を受け入れることは諦めではなく

この生にまっすぐに向き合うこと


こみ上げるおそれや不安に震えながら

この生命を歩いてゆくこと




いま、私は母とともに

深く続くこの道を


ゆっくりと


歩いている



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深い深い海の底で


あなたと眠る

  



微かな鼓動に耳を澄ませ



あなたの生命を感じる





永遠の時のなかで


あなたの魂を感じる





深い深い海の底で



あなたとともにいる


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いま


あなたの横に眠り

痛みを抱えたお腹に触れ


微かに呼吸しながら


私はこの手で祈り、語りかける


やせ細って小さくなったあなた


それはまるで小さな少女を
抱きしめるかのよう

傷ついて怖がっている1人の少女



大丈夫

大丈夫

怖がらなくていいよ


もう許してあげていいんだよ


怖かったね


辛かったね


寂しかったね


そばにいるよ

大丈夫だよ



愛してるよ




何度も

何度も



あなたのお腹の中の 

小さな少女に…



それはかつて


あなたが私に

語りかけてくれた言葉でもあるのだろう


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