70歳という年齢の線引きには意味があります。
厚生労働省が公表しているデータによると、2021年時点の健康寿命は男性で72歳、女性で75歳とのことです。
つまりは、70歳を過ぎると何かしら健康状態から生活に支障をきたす可能性があるということです。
それが相続とどう関係があるのか?
認知症という観点で考えていきます。
①認知症について
内閣府の高齢社会白書によると、2025年には65歳以上の方の5人に1人が認知症になると予想されています。
認知症は、未だに治療薬が見つかっていない病気ですので、急に発症者が減るということは考えられません。
少し古いデータになりますが、平成26年度に厚生労働省が主導して調査した結果によると、70代後半になると10人に1人が、80代前半になると4人に1人、80代後半を超えると2人に1人が認知症にかかっているとのことです。
ですので、親御さんが70歳になると、遅かれ早かれ認知症になるかもしれないという心づもりを行う必要があります。
②認知症になると法的にどんな影響があるか?
認知症になると、何かを契約(解約)したり、モノを売ったり(買ったり)という法律行為ができなくなってしまいます。
例えば、定期預金は解約しなければお金の引き出しはできませんので、認知症になると勝手に使うことはできなくなってしまいます。
また、不動産の売却もできなくなります。つまりは、自分の描く、あるいは家族の描く老後人生は送れなくなってしまいます。
③認知症になって本人ができないことは誰がやるのか?
それでは、認知症になってしまった場合、何かを契約(解約)したり、モノを売ったり(買ったり)という法律行為は、全くできなくなるのでしょうか。
そんなことになってしまうと、生きていくことができなくなるので、代わりに意思判断を行う人を設定することができます。
代表的な制度は、「成年後見人」と「家族信託」です。
「成年後見人」は、本人に代わって何をするべきか判断できる人である後見人を設定し、後見人が本人の利益のために判断を行う制度です。
また、家族信託は、家族など信頼できる誰かに、予め契約書で事細かに何をどういう判断でどのような運用(運営)を行うか指示する制度です。
それは亡くなった後についても定めることができます。
ただ、認知症になってしまうと、「成年後見人」の中でも「法定後見」という制度を使って、裁判所が指定する後見人をつけざるを得なくなり、ほとんどの方が全く知らない赤の他人にお金を払って後見人を引き受けてもらうことになります。
また、法定後見人の選定には時間がかかりますので、その間は法律行為が行えないことになります。
④遺言書について
認知症になると、当然遺言書を書いても有効なものではなくなります。
ここで、そもそも遺言書を書く意味は何なのかを知る必要があります。
すごくざっくり説明をすると、有効な遺言書があれば、誰が何を相続するのか原則遺言書の通りに相続する必要があり、有効な遺言書がなければ、残された人たちで話し合って、全員の合意で誰が何を相続するのか決める必要があるということになります。
やはり、残された人たちで合意するとなると、揉める可能性も出てきますし、なにより亡くなった方がどの資産を誰に受け継いでほしいのか、大切な家族に仲良く過ごしてほしいという思いが実現されなくなるかもしれません。
ちなみに、遺言書には「付言事項」という、資産とは関係のない、相続人や大切な人への気持ちを書き加えることができます。また、内容を変えたければ都度書き換えることもできます。
⑤介護について
介護というのは、例え血の繋がった親子や、夫婦であっても精神的な負担、肉体的な負担は計り知れません。
今現在、介護殺人は正式な統計はありませんが、報道ベースで年間30~50件ほどあり、これは実際のほんの一部と言われています。
それほどまでに、介護というのは大変なものです。
親のことを負担という表現をするのは違うと思ってらっしゃる方もいるかと思いますが、実際に介護をしている人の話を聞くと、そんなきれいごとではありません。
それではどうすれば、このような精神的、肉体的負担を減らすことができるのか。
それは経済的負担を負うしかありません。
施設への入居、訪問介護の活用を頼るしかありません。
しかし、これらは多額の費用がかかります。これもどれくらい費用がかかるのか専門家に聞いて想定を行った上で、利用できるのであれば保険なども利用してしっかりとした準備が必要です。
大切な親が亡くなることや認知症になることは考えたくないものです。
私もこんな文章を書いていると、気持ちよいものではありません。
けれども、本気で親の老後の幸せを考えるのであれば、知らなければなりませんし、考えておくべきものです。
知った上で、考えた上で、何の準備もしないのであれば、それでいいと思います。
ただ、目をつぶったり、何も考えていなかったりするのであれば、それは本気で親の老後の幸せを考えているとはいえません。
ここまで読んでくださった皆さんは、本気で親の老後の幸せを考えていらっしゃると思いますので、応援させて下さい!