「相続税対策はするな!!!~前編~」では、不動産を使った一般的な相続税対策の基本的なものをお伝えしました。
そして、この後編が本題となります。
なぜ、「相続税対策はするな!!!」と言っているのか、その理由についてご説明したいと思います。
相続税対策の問題点
私がなぜ「相続税対策をするな!!!」と言っているのか?
それは、相続が発生してもない今計算する相続税予測なんか意味がないからです。
相続税は、相続発生時の法律に基づいて計算を行うものです。
相続発生時といういつか分からない未来でそのときどんな法律かも分からないのに、今の法律に基づいた対策をしても意味がないということを言いたいんです。
将来相続発生するときも、今と同じ法令に基づいた相続税になることを前提に対策をするのは、極端な言い方をするとギャンブルと同じです。
「極論、サイコロを振って、1、1、1、1と1の目が連続で出たから、次も1の目が出ると決めつけているようなものです。」
とか言いたかったものの、法律は、サイコロのようにランダムに変わっていくものではなく、経済的、政治的な流れがあるので、根拠があり予想もできます。
とはいえ予想がつくのも数年後までくらいの話ではないかとも思います。
ただ、そこまえ言えなくても、不動産を使った相続税対策でいうと、明らかに見えているリスクがあるんです!!!
相続税評価について
そのリスクというは、不動産の相続税評価額に関する、法律の記述の話です。
実は、相続税法第3章(財産の評価)の第22条(評価の原則)には、
「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により...」
としか書かれていません。
つまり、不動産は「時価」で評価するよう定められているわけです。
それでは、なぜ土地は「路線価」建物は「固定資産税評価額」などで計算することになっているんでしょうか?
それは、国税庁が「財産評価基本通達」という計算方法の指針を出しているからです。
では、これは誰に向けた「通達」なのか?
それは国税局、税務署の職員の方に向けた通達です。
つまり、納税義務者に向けて定められたルールではありません!!!
ではなぜ申告の時に我々が「財産評価基本通達」に基づいているのかというと、申告が正しいものかどうか調査を行う税務署・国税局の職員の方と同じ考えで申告した方がOKをもらいやすいからということです。
しかし、そんな通達は、時代に即して変化していきます。
民法改正なんかと比べれば、簡単に改正されます。
なぜならあくまでも社内ルールの改正だからです。
そのような、通達1つで相続税評価が大きく変わった最たる例が、「タワマン節税」が事実上無効となったことです。
タワマン節税
数年前まで富裕層の間でタワーマンションを使った節税、いわゆる「タワマン節税」というものが流行っていました。
どんな節税方法かというと、こんな感じです。
50階建てのタワマンがあるとします。
2階の80㎡のお部屋と、最上階50階の80㎡のお部屋を考えてみてください。
実は、この2部屋、持っている土地の面積(敷地権の持ち分割合など)が同じなので土地の固定資産税評価額も一緒、床面積が同じなので建物の固定資産税評価額も一緒です。
けれども、どう考えても時価は絶対違いますよね!
2階と50階のお部屋の値段が同じわけありません!
おそらく50階の方が数倍高いでしょう!
けれども、税金は同じということを使って行われていた節税です。
そもそも相続税評価は時価よりも低く設定されていることが多いです。
そんな中で、高層の部屋であればあるほど、時価と相続税評価額の差が激しくなっているため、高層の部屋を買うことで、著しく相続税を減らすことができるというものです。
しかし、残念ながら、この相続税評価(単純な計算)は事実上できなくなりました。
なぜなら、令和5年9月28日付で国税庁が「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」という新しい通達を出したからです。
この通達により、より相続税評価を時価に近づけるために、相続税評価額計算の式に階数補正が組み込まれるなど計算方法が変わり、令和6年1月1日より施行されました。
これら通達から考えなければならないこと
上記タワマン節税が使えなくなったことから帰結することは1つです。
つまり、相続税の計算は相続税法に則り「時価」でなされるべきものだということです。
相続税評価と時価とのギャップを使った節税がこれまで当たり前のようになされてきましたが、結局これは抜け道のようなものであって、いつでも国税庁はその抜け道を閉じることができるということが分かりました。
そして、これは相続税法で「時価」とアバウトな文言の記述しかないことで、現場に自由を与えているということに他なりません。
そう考えると法律って本当に面白いです。
官僚たちは日本語を巧みに扱い、こういう誰かにとっての抜け道を常に準備しています。言葉というのは論理の世界なので、官僚は語彙力、論理的思考に長けた、いわゆる偏差値高めの人たちが就いているんですね。
脱線しましたが、つまり相続税評価は行きつくところは「時価」でしかないので、その計算方法は現場レベルでいつでも変わり得るということです。
ですので、そんな変わり得て、かつ実際に実情に則して計算方法が変更されたことがあることが分かりながら、現行の計算方法に基づいて「節税対策」を行っても何の意味もないと言っているわけです。
まとめ
私が、誰に対して「相続税対策はするな!!!」と言っているのかというと、不動産投資家です。
不動産投資への向き合い方に1つ警鐘を鳴らしたいと思っています。
それは、ワンルームマンション投資についての記事などでも、一貫してお伝えしていることではありますが、不動産投資はあくまでも不動産で資産(お金)を増やすのが目的だと考えています。
税金が減るのは、副次的産物であって、あくまでもボーナスポイントと捉えています。
それをメインに持ってくるのはナンセンスです。
そして、私が見てきた不動産投資で失敗した人は、たいていが税金だとか投資の本質からズレたところに焦点を当てて、資産価値を維持・アップすることや、投資のリターンを維持・アップすることの意識が低い方です。
しかも、こと相続に関してで言うと、あくまでも税金がどれだけお得だったか決まるのは、相続発生時の法令、あるいは国税庁の通達によります。
不動産を買ったことで、もう相続税が減ったとか勘違いしないでください!!!
あくまでも、“今”相続発生した場合の計算しかできません。
一方で、割と確率高く言えることはあります。
相続税はなくならないということです。
日本人は、昨今の選挙を見てもそうですが、消費税などの一般庶民にも影響出る税金は減らせというムーブメントは起こりますが、一部の資産家から取る相続税のような税金を減らせというムーブメントは起こりにくいです。
2022年のデータを見ると相続税は国民の1割も課税されていません。
むしろ、相続税のように1割にも満たない数のお金持ちから取る税金は上がる可能性の方が高いと思いませんか?
ここで、タイトルと一見矛盾したことを言うと、確実な相続税対策は、お金を増やし納税資金を蓄えることです。
もし相続税が増えても払えるような体力を蓄えておく(資産・お金を持つ)ことが一番はっきり分かっている相続税対策ではないでしょうか?
つまり、「相続税対策=節税」という定義ではなく、「相続税対策=納税資金を作ること」という定義に変換していくべきだし、
不動産投資も納税資金を作ることを目的にするならまだしも、税金減らすために投資を行うのはナンセンスだと思って頂きたいです。
さて、2回に分けて「相続税対策はするな!!!」という内容をお届けしてきましたが、ご理解頂けましたでしょうか?
「不動産投資は資産・お金を増やすことを目的にしてください!」を相続税という目線で違った表現をしてみたわけです。
今回借入金を使った節税について書けなかったので、次回以降でそこも掘り下げたいと思います!