『映画検閲』

 

 

 

2021年、アメリカのユタ州で行われるインデペンデンス映画を対象とするサンダンス映画祭で上映され、高い評価を得て米英で公開。

公開から3年を経て日本に上陸する運びになりました。

 

 

日本語のタイトルは『映画検閲』。

原題は『Censor』。

 

 

censorは「(出版物・映像物など)〜を検閲する」を意味する英単語で、名詞には「酷評家」「アラ探しをする」とあります。

 

 

悪い部分を探すって・・個人的にはあまり好きではないかな。

今回の映画のように「悪影響を及ぼす恐れがある作品」を事前に検閲するという意味とは別の話で、粗探しをする人って良い部分を見つけられない気がします。良いところを探す方が楽に生きれると思うのだけれど・・・まぁそれは心に閉まっておいて。

 

 

通常、外国語映画の場合は、記事のタイトルは原題表記にしておりますが、なんとなく今回は日本語漢字の方がしっくりくるなと思い、THE映画評論『映画検閲』と映画&映画にしました。ただのキマグレンです。

 

 

劇中は検閲官の主人公が過激な殺戮映像を見るシーンが多く、その影響で精神(脳・意識)が崩壊していく様を描き、R15指定となっています。

 

 

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女性監督【プラノ・ベイリー=ボンド】

 

イーニッド・ベインズ【ニアフ・アルガー】

 

 

配給[OSOREZONE]

本編[1時間24分]

 

 

 

 

 

 

不思議な作風でした。カルト映画といえばそうなのかも知れませんが、あらかじめ内容を理解した上で鑑賞されると「ドラマ」として観れるようになると思うので少々伝えます。

 

 

1980年代、サッチャー政権下のイギリスで国民の娯楽とされたのが「ビデオ映画」。

ビデオテープは販売もレンタルも大人気で、家庭でビデオ鑑賞するのがイギリス国民の日常だったことを今回の映画で知りました。

 

 

イギリスはロックバンドやメタルバンドのミュージックもそうですし、エンタメが文化・国民性として成立していて、アメリカよりも崇教的になるファンが多いような気がします。

 

 

国民が家庭のテレビでビデオ鑑賞を楽しむ一方、人間(特に子供)の精神に悪影響を及ぼす内容の作品が英国で社会問題となり、ビデオ・ナスティと呼ばれる「暴力的・猥褻」の内容のものは販売禁止措置が取られました。

 

 

 

 

エクスプロイテーション映画産業と言い、簡単に言えば金儲け主義で作られた映画ですね。低予算で量産し、作り手が得をするようになっています。

 

 

主人公の【イーニッド】は検閲官として、劇場公開・ビデオ販売される前の段階の「削ぎ落とし」を行っています。

 

 

今でいうR15指定、R18指定を検閲する内容です。

 

 

検閲とは公権力・公的機関。世に販売する最終段階を主人公が行う。すなわち何か起きれば国の責任となるのです。

 

 

検閲にもジャンルがあると思います。純粋な恋愛映画やMr.ビーンみたいなコメディ映画だったらどんなにいいか(笑)

 

この映画では基本的に「スプラッター映画」を検閲していて、人体を切断したり、臓物が飛び出したり、眼球に注射針を刺したりと・・それはそれはそれはそれは・・気持ちが悪い映像の検閲を主人公の女性は担当しています。

 

 

ちなみに私はホラー映画は好きですが、スプラッターは苦手なジャンルです(^◇^;)(無差別殺戮とかマジ苦手。)

鑑賞の決め手は「英国映画」だという好きが先行しただけ(^◇^;)

 

 

この映画に登場する検閲官は数名と少ないですが、「作り物」とはいえ無表情で検閲している検閲官達(人間)の様子は非常に不気味です。

目を背けたり悲鳴を上げる方が人間的かなと思いますが、職業病で見慣れるとそういうものなのかも知れませんね。検閲官は30代〜50代くらいのオジサンとオバサン、そこまで若い方はいません。

 

 

こちらは例えば、20代前半の新人検閲官を登場させて、反応が分かりやすくするなどするのが個人的には理想かな。

 

 

主人公は英国政府が危惧する鑑賞者の精神に有害な映像を世に出さないように日々尽力しています。

 

 

だったらスプラッター映画自体の制作を英国政府が圧力かけて制限かければいいと思うのですが、表現の自由なのか、作り手と買い手が存在し需要と供給があるため生産は絶えず、検閲官は休む暇もありません。

 

 

「リトル・ミス・パーフェクト」彼女は放送界隈でそう呼ばれています。

 

 

 

 

自分が担当した作品は描写をコマ送りでチェックして、有害だと思うと問答無用で削除していくからです。

「鉄の女」と言われた保守派のサッチャー首相と同じく、感情的ではなく冷静に判断しているのが印象的でした。

 

 

女性監督によるR指定ビデオを検閲する女性検閲官を主人公とした映画というのが今作の一番の見所なのではないでしょうか。

 

 

(1980年代のイギリスに女性検閲官がR指定作品を担当しているけれど、実在したのかな?この映画の女性検閲官は2名いますが、それも知りたいところ。)

 

 

作り手(製作側)にとって検閲官の審査はウィンウィンではないでしょう。

自分が作った制作物を削ぎ落とされたり、不必要な描写と判断されるわけですからね。

 

 

劇中の作品は全て存じませんが、仮に物語重視の脚本だった場合は、カットばかりして「作品の質」「制作側の意向」「完成度」が削ぐわれないのか?と考えてしまいます。おそらくホラーやスプラッター映画の上映時間が短いのは、こうした検閲機関のディレートがあるからなのでしょう。

 

 

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イーニッドには幼い頃に行方不明になった妹がいます。行方不明から10年以上が経過し、両親は死亡証明書を提出することが家族のためと用意しますが、娘は「妹は死んでない!」と一向に拒否。高齢になった両親は娘の顔色を窺いつつ、独身の娘を心配しています。

 

 

少女の頃に山林で消えた妹

それが一家に深い傷を負わせていることは言わずもがな。

腫れ物に触り、神経質になるため、極力この会話を避けて暮らしています。

 

 

ある時、恐れていた殺人事件が起き、全英が震撼します。

 

イーニッドが検閲を担当したスプラッター作品を真似た模倣犯が現れたのです。

 

 

我が子を殺害し、妻の顔を食べた・・という非人道的な殺人事件です。

これはあくまで「映画だから描ける」残酷な描写。

流石にそのシーンは劇中の映像にはありませんが、セリフで聞くだけで生々しくて気持ち悪くなります。

 

 

「それ見た事か!」「いつかこうなると思ってたんだ!」かねてからスプラッター映画の「在り方」を危惧していた英国民にとって、恰好の攻撃対象になるのです。

 

 

プロデューサーや監督も攻撃対象ですが、こちらは劇中見る限り打たれ強くなっていました。作り手には芸術家としての喝采や自己顕示欲がありますが、検閲官はそういうのはないですからね(^^;)

 

 

カルチャーショックだったのが「マスコミによる元凶捜し」で、その映画の担当検閲官であるイーニッドに連日パパラッチが殺到します。

タブロイド誌が「模倣犯が出た映画を承認した検閲官」として、彼女の名前を報じたのです。

 

 

これにより全英の敵となりますが・・そんなの、あんまりじゃないですか(^_^;)

 

 

会社の前には連日10数名のパパラッチが集まり、個人情報は特定され、私生活の様子(買い物)を撮した写真は「新聞の一面」で報道され、その煽りが影響して自宅では攻撃的な電話が鳴り止みません。

 

(日本でも最近は週刊誌→マスコミの順番で攻撃していますね。マスコミのゴミ捨てが国を動かす時代。)

 

 

これまで淡々と仕事をこなしてきたイーニッドですが、この辺りから空間が歪むようにキャラ変していきます。

 

 

模倣犯の登場で仕事に支障がないと言えば嘘になりますが、職場の雰囲気はあまり変わりませんし、イーニッドはこれからも自分の仕事をするだけです。

 

 

一方で、彼女にとって模倣犯よりも重要な大事件が起きます。

ある時、担当したスプラッター映画の主演女優が行方不明中の「妹のニーナ」であると直感するのです。

 

 

他人の空似?・・いやそうじゃないわ!?

その映画がニーナの失踪の記憶を呼び起こす出来事を描いている事に気づき、直感は確信へと変わります。

 

 

取り憑かれたようにその女優の情報を捜す主人公イーニッド。

 

 

過去の出演作品はビデオナスティーで英国政府から販売禁止指定となっているため、情報網を伝い、違法ビデオを販売するビデオ店でGET。

それにより益々、このアリス・リーという女優が妹であると確信していきます。

 

 

この吉報を両親に伝えると「前もそんなようなこと言って違ったじゃないか」と両親は言います。

前にも合ったそう。両親は冷静です。

 

 

「今度は本当よ確信しているの」。人間がこうなってしまうと1つの方向と選択しか出来なくなります。

 

 

インターネットもSNSもない時代。映画の情報は少ない。

そもそもスプラッター映画は英国政府や国民が神経質になっているため、極秘に撮影されていることが多い。

 

 

妹と確信しているアリス・リーは、監督のフレデリック・ノースの看板女優であり、監督に会うことを優先する。

 

 

イーニッドは検閲会社の持ち出し禁止ファイルを持ち出しプロデューサーの家を訪ねると、フレデリック監督が現在撮影中であるという情報を仕入れ、撮影地の山林へと向かいます。

 

 

 

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主人公イーニッドを演じた【ニアフ・アルガー】[32]は角張っている顔の輪郭が印象的なアイルランド出身の女優。

 

 

ウィキペディア先生は英語版のみ存在しています。これから日本の映画館で見る機会が多い女優になるか?は、この作品を見る限りでは直感的には感じませんが、時折ニコール・キッドマンに観える事もありました。演技力の評価も高いようなので、次に観る機会があれば、もう少し観察しようと思います。

 

 

 

 

 

・・・冒頭に書きましたが不思議な映画でした。

R15指定と日本の映倫が判断しているので、ある程度の描写の覚悟はしていましたが、主人公の日常よりも「仕事中」で検閲するスプラッター映画のシーンがR指定のグロさというのが斬新さでした。

 

 

ようは毎日のように検閲前のグロテスク映像を見ている検閲官の「頭がおかしくなる」。言葉を選ばずに伝えるとそういうことです。

 

 

主人公には幼い頃に山でキャンプ中に失踪してしまった妹がいて、現在も見つかっていない。それも相まって「空想と現実」が混同していきます。前半は二分割し描かれていて分かりやすかったけれど、後半はどこまでが現実か分からなくなるほど精神障害・支離滅裂な世界観でした。

 

 

そして2020年台の現代でVHS時代の映像が違和感なく制作できる事に感心します。

 

 

エンディングからエンドクレジットの入り方は「これで終わりなの?」という消化不良感があります。海外版ウィキペディア先生のあらすじを読み、ある程度理解してこの記事を書いていますので、もう一度見返せば良いところをさらに探せると思いますが・・この映画は1度だけで十分です(笑)

 

 

ホラー映画を製作する人物って、先進気鋭だったり「私の脳の中を見せてあげる」みたいな常人には理解が難しい描写で天才風を吹かす方が多いです。そういう意味では今作は伏線回収などの流行的な手法には手を付けずに、ある意味淡々と展開が進むなかで不穏な空気を演出しています。ヨーロッパで注目される新人の女流監督の処女作品を見せてもらった想いが強いです。

 

 

80分台、クレジットを抜くと70分台になる短い尺の中、スプラッター映像が大半を占め、苦手な人には本当に苦手だと思うためお勧めはしません。

 

ただ私の職場の若い10代20代の女性の中には血吹雪がブッシューや『13日の金曜日』系の映像が大好きな人が数名いて、スプラッター映像が好きという人も少数派ながらいるのも事実。

 

 

 

この映画に限らず、編集作業をする職業の人は精神的に、脳内的に大変だと常々考えます。

 

 

(定期的なカウンセリングが必要になる職業だなぁ。)

 

 

作り手は「表現の自由」を訴えますが、観る側・観せる側は気を付けなければなりません。

 

スプラッター映画は人間や生き物を殺害する映像が主となるため、思春期の子どもに悪影響を及ぼす恐れがある。子どもでなくても、こういう映像を見て気持ち悪くなる人もいれば、ワクワクしたり興奮したりする人もいる。そして後者の鑑賞者が模倣犯となる可能性が高い。

 

 

1980年代に英国政府が有害映画と判断して販売を禁止していた「ビデオ・ナスティ」

映画→ビデオ販売の流れではなく、最初からビデオ販売される映画です。

 

主人公が見ているのは、あまりの過激な描写で有害だと社会問題になったビデオ・ナスティの時代のカットする前の・・言い換えればモザイク処理前の生々しい映像です。

 

 

それを仕事中は四六時中「観察」しているのだから、ある意味、誰よりも頭がおかしくなるのは必然的かと思います。

 

 

そもそも、どうして主人公がスプラッター映画の検閲官をしているのか?

その理由が作中で描かれていたのなら、色々と腑に落ちたと思うし、高得点になった事でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

脚本 13点

演技 14点

構成 14点

展開 12点

完成度13点

 

[66]点

 

 

【mAb】