アルビセレステス悲願のタイトルへ、足りないのは''メッシ外しの勇気''だけか | Weltmeisterschaft

Weltmeisterschaft

サッカーについて思ったこととか書いていきます。
Jリーグからヨーロッパ、南米、アジアの他国など、幅広く取り上げていきたいと思います。
Twitterアカウント→@ducuxb1103

いよいよ決勝を迎えたコパ・アメリカ・センテナリオUSA2016。ファイナルのカードは昨年のコパ・アメリカと同じチリ×アルゼンチンの顔合わせとなった。その前回ファイナルでは当時ホルヘ・サンパオリ監督が率いていたチリがアルゼンチンのキーマンとなるエースのリオネル・メッシ(バルセロナ/スペイン)を完全に試合から消し去ることに成功して悲願のコパ初優勝を果たした。今大会ではグループリーグの初戦でも対戦しており、そのときは負傷でメッシを欠いたアルビセレステスがアンヘル・ディ・マリア(パリ・サンジェルマン/フランス)の活躍などで2-1で勝利し昨年のファイナルのリベンジを果たしている。

今回の決勝も前回ファイナルと似たような展開となった。前半から両チームが1人ずつ退場者を出すなど大荒れの展開に。21分にはゴンサロ・イグアイン(ナポリ/イタリア)がチリDFガリー・メデル(インテル/イタリア)のトラップミスを奪ってGKクラウディオ・ブラボ(バルセロナ/スペイン)と1対1の場面を迎えたがシュートはゴールの僅かに左に逸れた。前半はアルゼンチンが優勢に試合を進めるも無得点に終わった。

後半は一転してチリがボールを保持する展開になるも、シュートまで至る場面はあまり作れず。一方のアルゼンチンも時折カウンターでチャンスを作るが得点には至らない。結局両チームとも決め手を欠き、スコアレスで延長戦に突入した。

延長戦でもセットプレーから途中出場のアルゼンチンFWセルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ/イングランド)が放ったヘディングシュートをブラボが超ファインセーブで弾き出すなど両チームとも無得点のままPK戦に。PK戦では先攻のチリの1番手MFアルトゥーロ・ビダル(バイエルン・ミュンヘン/ドイツ)が外したが、後攻のアルゼンチンも1番手のメッシが外し、その後両チームとも決め続けて迎えた4番手でルーカス・ビリア(ラツィオ/イタリア)のシュートをブラボがセーブ。このリードを保ったチリが昨年のコパ・アメリカに続く2連覇を果たした。



↑アルゼンチンの主将として臨んだ今大会も悲願のA代表初タイトルはならなかったメッシ。


それでは今回の決勝では何が勝敗を分けたのだろうか。個人的には、アルゼンチンにリオネル・メッシが存在していたことだろうと思う。なぜこれがアルゼンチンの敗因となるのか。それはズバリ、アルゼンチンにおいてメッシが圧倒的すぎる存在だからだ。

今日の決勝でのアルゼンチンは(もちろん今までの試合でも往々にしてそういう傾向はあったのだが)、チャンスの場面ではメッシにボールを預けることが多かった。もちろんメッシがこうしてアタッキングサードでボールを受けることで相手の守備陣を引きつけて他の選手がフリーになったりメッシがドリブルで複数人の相手選手をかわしてチャンスを作ったりという場面もあるが、それ以上にボールを持ったメッシへのチームメートからの信頼が厚すぎるのかメッシへのサポートが遅れる場面が多く、メッシがボールを持ってパスコースを探しているうちにチリの激しいプレッシングの餌食となってボールロストする場面が多く見受けられた。

また、特にエベル・バネガ(セビージャ/スペイン→2016-17シーズンからインテル/イタリア)に多かったが、他のアタッカーも往々にして、自分でボールを持って突破していけそうな場面でも近くにメッシがいる場合にはメッシに預けることも多かった。メッシという代表キャプテンであり世界最高の、さらに言えば歴史上で見ても最高クラスの圧倒的な個を持つタレントに遠慮しているのか、それともそのクオリティを過剰に信頼しすぎているのかはわからないが、メッシがピッチに立っているかぎり、アルゼンチンの攻撃陣にどんなにタレントが揃っていようがメッシ依存からは脱却できないのかもしれない。

と、ここまでダラダラと書いてきてわかりにくくなってしまったので、メッシを起用することによるメリットとデメリットを箇条書きで挙げてみたい。




メッシを起用するメリット
①攻撃が停滞したときに1人で打開してくれる圧倒的なクオリティ
②メッシという存在自体による相手への威圧感
③メッシに対する警戒感から他のアタッカーがフリーになる

メッシを起用するデメリット
①メッシの圧倒的なクオリティ故に、メッシに対するサポートが遅くなり、メッシを孤立させてしまう
②メッシに対する過剰な信頼感またはメッシという大物に対する遠慮から、自分で持ち込める場面でもメッシにボールを預けるなど、個々の判断力へ悪影響を及ぼす
③メッシがあまり守備をしないので守りの面でメッシ以外の選手により多くの運動量が要求される

そして今回のファイナルではこのうちのデメリットの方がより顕著に現れていたように感じる。この点に関しては、相手が南米さらに言えば世界でも屈指の強度のプレッシングを誇るチリが相手だったことで表面化した問題と言えるかもしれない。またチリのような激しいプレッシングを武器とするチームが相手になった場合にのみこのようなメッシ依存の欠陥がより強く現れると言ってもよく、それ以外の弱小国相手ではこの問題があまり表面化しないというところに最大の問題があるように感じる。

今回のファイナルでフリーでボールを持った場面でバネガやイグアインがメッシに預けずに自分でドリブル突破を仕掛けていればメッシに対する警戒感からよりフリーになって得点チャンスを生み出せていたかもしれないし、それができていれば90分でアルゼンチンが勝っていてもおかしくなかったのではないか。




ここまで書いてきたことはあくまでも今回のファイナルを観ていて感じたことであり、実際の敗因は別のところにあるのかもしれないが(直接的な敗因と言えるのは21分にピピータが決定機を逃したことやチリの守護神ブラボが絶好調だったことと言えるかもしれない)、メッシの存在によって他のアタッカーが萎縮してしまい力を発揮できないこともまた事実なのではないか。アルビセレステスにはせっかくメッシだけでなく他国も羨むような豪華アタッカー陣がいるのだからそれらを有効活用しない手はない。

今後、こうした事態を防ぐために有効な手段として考えられるのは、チリのようなハイプレッシャーを武器とするチームが相手のときは思い切ってメッシをスタメンから外すことだろうか。そして後半、相手が度重なるハイプレスによって疲れ始めたタイミングでメッシを投入し、さらに追い討ちをかけるといった展開が理想的なように感じる。実際、今大会の初戦で負傷によりメッシが欠場したアルゼンチンはチリに勝利していることを踏まえれば、この戦い方はアルゼンチンがコパやワールドカップのような短期決戦の国際タイトルを獲得するためには最も重要な作戦かもしれない。