学校が終わり、幼馴染のてちと一緒に帰り道を歩く。



いつもと変わらない、この時間。









「今日バレンタインだね、てちのクラス、チョコ貰ってる人いた?」



「あ〜、理佐は去年同様たくさん貰ってたわ」



「てちも貰ったんじゃない?」



「何個かね。芽実は?」



「貰ってないし、あげる人もいな〜い」






そう言うと、てちは少し不服そうな顔で「ふ〜ん。」と言った。





去年はチョコをあげたから、いじけてるんだろうか?



その不服そうな表情が、可愛くて、思わず笑ってしまう。






「なんだよ」



「ふふっ、てち、チョコ欲しかった?」



「別に、いらないけど。芽実から貰わなくてもあるし」





小さい頃からずっと一緒にいる私たち。



てちの表情や声色で、どんな気持ちなのか少しだけ分かる。






てちは、私の気持ちになんて、気づいてないだろうけど。




「あ、そうだ。今日芽実の家行っていい?親帰ってくるの遅いらしくて」




「うん!いいよ、ママも最近、友梨奈ちゃんはいつ来るの〜って言ってたし喜ぶよ!」





小さい頃は、お互いの家に遊びに行って、お泊りして、なんて当たり前だった。




中学生になってから、それも段々と減っていって、高校生になった今はほとんどそれがなくなった。



それでも、登下校はいつも一緒。


その時間が私にとって、すごく幸せな時間だった。








ーーーー





「ただいま〜、ってまだ誰も居ないけど」



「お邪魔しま〜す」



「飲み物持って行くから、なんか適当に着替えといていいよ」



「は〜い」




お互い、家に行った時は部屋着を貸し合うのは、制服を着るようになってから自然と決まった。



こんな関係で居られるのも、幼馴染だからだろうし、もしてちに好きな人が出来たりしたら、こんなことも出来なくなる。


そう思うと、寂しい気持ちになるけど、私は今こうしててちと居られることが、嬉しいと思えた。







部屋に入ると、スウェット姿のてちが居て、こういう姿を見るのも久しぶりだったせいか、ギャップを感じでしまって少しだけ鼓動が早くなった。





「ママがあと30分ぐらいで帰ってくるからそれまでご飯待てる〜?って。」



「うん、全然大丈夫。」





そんな会話をしながら、今まで当たり前にやってたように、私も部屋着に着替えようとした。



だけど、この状況が妙に恥ずかしくなってしまった。





「…なに?」



「ちょっと、向こう向いてて」



「…は?なに今更恥ずかしがってんの」




そう言って、てちはテレビをつけてテレビに集中した。





着替え終わって、てちの向かい側に座り、テレビに集中するてちの横顔を眺める。





本当に綺麗な顔してるなぁ。


まつ毛は長いし、輪郭はすっきりしてるし、可愛くてカッコよくて…そりゃモテるよね。






「私の顔になにかついてる?」



「ん〜綺麗な目と、鼻と…」



「ふふっ、うるさ」




こんなに居心地のいい時間を過ごせる喜びや幸せを、てちも感じてくれていたら嬉しいんだけどなぁ。





そんなことを思っていると、てちは時計を確認して、スクールバッグを取りに行った。




てちの姿を目で追い、てちはそのまま私の隣に座る。




「え、なに?」



「はい、チョコ。」



「…え!?てちが私に?初めてじゃない?そんなの。頭でも打ったの?」




「あのさ、失礼すぎ。今まで何もしなかった私が急にバレンタインにチョコ渡してきたら、普通もっと別のこと思わない?」




こんなこと初めてで、友チョコすら誰にも渡したりしてこなかったてち。


そんなてちが急に私にチョコを渡してくるなんて、驚きすぎて、意味が分からなかった。



「私、芽実のこと好き。幼馴染としてじゃなくて。」



「……。」



驚きすぎて言葉も出ず、ただてちの目を見つめる。



「芽実…?聞いてる?」



「あっ…聞いてる、聞こえてる!ビックリしちゃって…その、嬉しくて。私もてちのこと好きだから…」



「ちょっとだけ、そうかなって、そうであってほしいなって…思ってた。」



「私が好きってこと気づいてたの?」



「いや、気づいてた訳じゃないけど前と態度違う時とかあったし、それが勘違いじゃなかったらいいなぁみたいな…期待?」



「あっ、待って!私からも…チョコ…」




本当は用意していたチョコ。


去年は芽生えていなかったこの感情に気づいてしまったからか、去年みたいに自然と渡すことが出来なくて、なかなか渡せなかった。




「あげる人いないって言ってたくせに…」



「だからいじけてたんだ?あの時。」



「うるさいな、そういうのには気付くくせに」




そしててちは改めて、私の目を見つめた。




「芽実のことが好きです。付き合ってください。」



「私もてちのことが好き。宜しくお願いします。」




てちは優しく微笑んで、ゆっくりと近づいてきたかと思えば、唇を重ねた。





「なんか、恥ずかしいんだけど…」



「それは私も一緒。良かった、芽実ママ帰って来る前に気持ち伝えられて。」



「だから時計気にしてたの?」



「うん、だってママ帰ってきたら騒がしくてそれどころじゃないでしょ」



「確かに」




目を合わせて笑い合った瞬間、玄関の扉が開く音がした。




「友梨奈ちゃ〜ん!芽実〜!!」



下からお母さんの元気な声が聞こえる。





「普通、私の名前が先に出てこない?」



「芽実ママも、私のこと大好きだから」



「私の方がてちのこと大好きだし〜!」





2人の間に流れる時間が、今までとは少し違って、これからどんな時間が過ごせるのか、楽しみになった。





--終--