どう思います? 認知症を複雑化… | What's PROUSION !? 〜プラウシオンあれこれ〜

    日経メディカルから転載

    「ポリファーマシーが認知症を複雑化させている」

     日本では、高齢化の進展に伴い認知症患者が増え続けています。認知症対策が、国を挙げて取り組むべき重要な課題であることは明らかですが、一方で世間で言われている「認知症の脅威」なるものの本質はどこにあるのだろう、と考えさせられます。


     6月14日から京都で開催された第60回日本老年医学会学術集会で、そのことを考えさせられる報告が、群馬県沼田市の大誠会内田病院の田中志子理事長からありました。

     レビー小体型認知症のある女性患者が、前医にパーキンソン病と誤診され、ドパミンなどが処方されていました。しかし、治療に反応しないことを理由に内田病院に転院してきました。この転院にあたっては、「(元の病院では)お母さんが死んでしまう」という患者の娘さんの意向が強く働いたとのことでした。

     内田病院は診断の誤りを正し、症状コントロールを目的に処方されていた多くの薬剤を整理しました。転院当初、患者は周囲からの呼びかけにも応じず、視線を医療スタッフに向けることはない、いわゆる無動状態でした。しかし、絶え間ない声かけとリハビリを繰り返すことによってADLも向上し、自分の意思を表明できるまでに回復したそうです。

     続けて田中理事長は、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の混合型の男性患者のケースを紹介しました。この患者は車いすに拘束されていましたが、大声を挙げるなどの行動・心理症状(BPSD)が顕著で近所トラブルも多く、入院と転院を繰り返していました。その背景に薬剤性のせん妄が関係しているとみた内田病院では、薬を整理し、声かけやタッチングなどのコミュニケーションを続けました。

     内田病院では、患者に何らかの処置をするときは、必ず患者と目を合わせ、これから何をしようとしているかを事前に告げ、患者の了解を得てから始めることを心掛けているそうです。この混合型の男性患者のケースでも、そうした対応を続けることで、みるみるBPSDは減り、介護の負担も劇的に改善しました。この患者も、特別養護老人ホームを経て、帰宅できたとのことです。

     来年度、日本老年医学会総会の会長を務める東北大学の佐々木英忠名誉教授も、学術集会の講演の中で、「不適切な向精神薬や抗精神病薬が作り出す認知症がある」と指摘していました。「認知症であっても、前医が処方していた向精神薬や抗精神病薬、アルツハイマー病治療薬をやめるだけで、それまでイライラしていた患者が別人のようになる」という経験を重ね、認知症診療における薬物療法のあり方を疑問視するようになったといいます。

     身体拘束は、日本の認知症を診療する医療機関の44.5%で行われているという調査結果があります。内田病院の例でも分かるように、その背景にはポリファーマシーの問題があります。すなわち、認知症患者の増加に伴って誤診やポリファーマシーが増え、患者に顕著なBPSDが出現し、そのことで身体拘束が助長されているという構図です。この悪循環をどこかで断ち切ることさえできれば、認知症診療は劇的に変化する可能性があります。