昨日は日曜日
一日滋子さんと過ごした
「啓史さん 私どうしよう」
突然、滋子さんが言い出した
相変わらずである
「なにを」
「私のこと」
「だから、あなたの何を」
「しゃべること」
「しゃべっているじゃない」
「うまくしゃべること」
うまくしゃべるようになるのは、どうしたらいいのかとたずねているのだと理解した。
滋子さんの場合、一番の問題は舌の動きである
舌の動きを一通りいっしょに練習した
お互い変な顔で笑っていた
気がついたとき、練習しなさい
特に舌を前に大きくのばすこと

昼食の買い物に我が家の冷蔵庫へ出かけた
イチーヨーカドーである
買い物から帰って、滋子さんにただいまといおうとすると、
一生懸命、舌を出していた
直りたいのは本人である
ひとしおであろう
そういえば ひとしお は一入と書く
染物を染色桶に入れるごとに色が増すことからに由来している
外は春
日ごと、染色桶に入れる染物のようにあでやかになってゆく
滋子さんの気持ちも一入強くなっているようである

うれしい限りである
邪魔をしないように隣の部屋へ行く ベッドに座り、テレビをつけた。テレビを見ている気がしなくなり、
トイレの掃除でもするか
とたちあがった