救急について、ひとこと

東京都で、脳出血を発症した出産前の女性が、病院の受け入れがうまくいかずに亡くなった。本当に痛ましい。その女性は母親の喜びを味あうことなくなくなってしまった。
墨東病院、杏林大学など、懐かしい病院の名前がテレビをにぎわした。厚生労働大臣がまたまたよく事実を調べないで、騒ぎまくり、石原さんが苦言を呈していた。
 救急医療を横からサポートしていた先輩から一言
出産は、母親に大きなリスクがあるイベントであること、そして救急医療ではない。
もちろん、緊迫出産などは救急である。
年間数百万の出産があり、異常分娩も一定の比率で起きる。
死産、母胎の異常、未熟児の出産など一定の比率で起きる。
私の3番目の孫も未熟児で出産。母親の出産後の悲しそうな顔を今でも思い出す。健康で、五体満足な子供の出産はすべて、母親の責任と、あのこの背中が語っていた。
とにかく、大変なことなのである。
特に、近年、母親になる女性の不摂生(喫煙、飲酒、過度な減量)により、正常でない分娩が増えてきていると思う。でも、10ヶ月以上の専門家と家族のネットのなかで出産の準備を行っている。それでも、今回のような不幸なことが起きる。
民間の産婦人科は、異常を発見して、慌てふためく。産婦人科が脳出血の患者をみるのだから、無理もない。でも若い産婦人科の先生。超音波診断装置などのモニターに頼りすぎていませんか。
脳血管系疾患は予兆もなく、突然起きるだけではありません。火事だあと騒いでいて、救急車を呼んだら、来なかった。東京の救急体制は不備である。なんて言い訳してもどうしようもない。あなたはプロですよ。産科を開業していたら、たとえわずかな比率でも、こうしたケースがあるとすれば、その勉強もすべきですよ。モニターばかりでなく、患者をしっかり見るべきですよ。脳疾患系の病気は遺伝性が高い病気です。初診のアンケートに患者の家族の病歴を書くのは何のためですか。

かつて、N大学の分院で、出産のためのセットを作る仕事をした経験がある。殆どの出産は助産婦が行っていた。大学からきた研修医は助産婦さんにしごかれていた。彼女たちは、母親になる女性をしっかり見ていた。
テレビに出ていた女医さん、私は異常を発見し、病院へ連絡した。緊急度が先方に通じないのは冗談ではないとおっしゃっていた。でも、それは火事だ、消防車だといっている市井の一般人と同じでは。あなたはプロですよ。わずかな確立でも起きうる危機を予見することが重要ですよ。
システムが問題なのではなく、プロトしての姿勢と意識の問題ですよ。そして、失敗はありますよ。神との戦いなのですから。
ケニアで診療所の支援を行っていた。2000年ごろの話である。遠い昔のような気がする。
ビクトリア湖の東側、リプトンなどの紅茶の産地である。
小高い丘の芝生の真ん中に、その診療所があった。診療所の前には、出産を控えた女性が、芝生に横たわって、陣痛に苦しんでいた。そばには助産婦と家族。やがて、分娩室へ運ばれ、数時間後に誕生。大自然のなかの分娩である。
ケニアの青い、限りなく青い空の下での人間の営みである。
そこには、モニターはない。あるのは、叡智と経験に満ちたひとの目である。
医療に携わる皆さん、もう一度考え直してみてください。あなた方の叡智と経験はどこにいったのですか。