人間は、傷ついた分だけ強くなる。丁度骨折した骨が強くなるように。半端な傷、切り傷は逆に出血しやすくなる。中途半端に傷つくなというより、傷つくのを恐れて、擦り傷程度で抑えるなということなのだろう。特に若いうちは。
我々夫婦もお互い傷つけてきた。複雑骨折をするほどのダメージはなかったような気がする。
今奥さんに同じ質問をすると、同じ答えが返ってくる。ええ、たくさん傷ついたって。
で、どんなことと、聞くときっと答えられないだろう。もうすでに過去となり、たいしたことではないからだろう。それだけ強くなったのだろう。
タフな滋子さん。
でも、今は違う。慢心創痍の妻がいる。
退院以来、帰宅後は妻のベッドのそばで出来る限り過ごしている。
長年の闘病に疲れきった妻がいる。
僕のためにがんばれというと、うなづく傷ついた妻である。
少しずつ話しながら、元気になっていこうねと思いつつ、春の夜は更けていく。
春宵値千金というより、春宵悔い万量というべき。