カッパ、カマイタチ、くねくね……私たちはなぜ、それらを妖怪と呼ぶことができるのか。私たちにとっては実在しない・超自然的である・俗信だから、だろうか。だが、ある時代や別の社会にとってみれば、妖怪はそのようなものではなかった。この食い違いは、どうすれば和らげられるだろうか。妖怪の概念をどのように書き換えていけばいいのだろうか。

 

妖怪を超自然的で実在しないものだとしてきた妖怪研究の存在論的前提を問い直すために、主に18世紀末から現代までの自然/超自然、宗教、近代/非近代をめぐる議論、日本の知識人の言説や思想、学知を渉猟して、それらと絡み合うなかで現代の妖怪概念が生成してきた過程を丁寧に分析する。

 

さらに、主要な妖怪を題材に、自然と文化、科学と俗信などの区分の構築とその限界を検証し、現代の私たちが想像してきた「非近代的存在論」に収まらない妖怪の記述の仕方を模索する。

 

妖怪と妖怪研究の関係性を存在論的転回の人類学の視点から批判的に検証する。そして、妖怪を超自然や非実在なものに還元せず、状況に応じて適切な概念でそのつど捉えていくことの重要性を指摘する。妖怪研究の再構築を試みる野心的な研究成果。

 

目次

 

妖怪学の存在論的前提

 1 本書の目的

 2 本書の対象

 3 概念の超自然的性格

 4 学史における存在論的区分

 

1妖怪と超自然の近代

 

1超自然概念をめぐる論争

 1 自然概念の多様性

 2 超自然概念の有効性

 3 超自然概念の批判

 4 非日常的なものとしての超自然

 5 精霊的用法

 6 超自然概念の多様性と統一性

 

2妖怪の超自然

 1 従来の妖怪学と超自然概念

 2 現代日本における自然と超自然

 3 西洋的自然と日本的自然

 4 前近代における超越/内在

 5 尋常ならざるもの

 6 妖怪概念の精霊的用法

 

3妖怪の近代

 1 欧米における「超自然の近代」

 2 十九世紀末、超自然概念の導入

 3 初期妖怪論における超自然

 4 近世幽冥存在論

 5 近代幽冥存在論

 

2妖怪の非近代的概念化

 

4妖怪の文化

 1 自然と文化

 2 オキナはクラーケンである

 3  「寓言」と「あるもの」

 4 水虎は古代ローマの海神である

 5 対象の転写は連鎖する

 

5妖怪の科学

 1 俗信に対する一般対称性

 2 妖怪の科学的研究

 3 俗信と民俗学

 4 真空説――その誕生から衰退まで

 5 俗信と科学知識の場

 

6怪奇的自然

 1 怪奇概念の展開

 2 くねくね

 3 関係論的宇宙からの逸脱

 

妖怪学の原理

 1 怪奇的自然と妖怪の概念

 2 妖怪学の新たな原理

 

参考文献一覧

 

あとがき

「ほうほう」