介護の世界は想像をはるかに超えた、汚く危険で、きつい世界だった。

次々とマイナス面を掲げることができる介護の仕事、それなのに私は今も介護ヘルパーを続けている。

だからといって、この仕事に生きがいを感じ始めた、なんてことはまったくない。

最後まで読んでいただければ、なぜ私がこの仕事を続けているのか、少なからずご理解いただけるのではないかと思う。

――本書は、介護現場の末端で見つめ続けた「老い」と「死」のドキュメントである。

 

 

はじめにより

介護職は最後の手段、という人がいる。

どうしても仕事が見つからない場合、仕方なく就く職業という意味だ。

私はハローワークの紹介で半年間、介護職員養成スクールに通い、修了後56歳で介護の世界に入った。クラスには70歳の同級生もいて今でもつきあいがある。

それ以前は、デザイン事務所、建設コンサルタントの役員、環境商材の施工会社経営などさまざまな仕事をやってきた。居酒屋2店舗のオーナーだったこともある。広告代理店で広告取りの営業もした。自作の絵画を売って生活していた時期もある。

つまり、多くの職歴や失敗を経て仕方なくこの仕事に就いたわけだ。

この業界では、いちばん下っ端に属し、利用者のお世話係程度の仕事だ。キャリアもまだ4年で、未熟な私が介護について述べるのは甚だおこがましい。それでも底辺から見えてくる景色を私なりにお伝えしたい。

 

 

もくじ

まえがき――想像をはるかに超えた景色

第1章 流れ流れて、介護職員

某月某日 「さっさとやれよ」:介護ヘルパーは奴隷か?

某月某日 隠す老女:隠したことすら忘れてしまう

某月某日 人間不信:裏表のある人

某月某日 相性:どうしても好きになれないタイプ

某月某日 養成スクール: 70歳の新入生

某月某日 「ここ絶対やめたほうがいい」:面接担当者はそう言った

某月某日 タブー: 「暗黒の時代だったのよ」

某月某日 夜勤のほうが好き:真夜中の入居者たち

某月某日 不思議な体験:入居者が亡くなって…

某月某日 モンスターファミリー:私の財産になった「笑顔」

 

第2章 私の〝ホ〟がない生活

某月某日 セクハラ: 〝夜〟と〝アッチ〟の話

某月某日 ヨボヨボ:射し始めた光の中に

某月某日 濡れ衣:人の噂も四十九日

某月某日 お葬式:泣く職員、泣かない職員

某月某日 ホがない一日: 「いいや、なんもせんかったよ」

某月某日 職業病:お年寄りが気になって仕方ない

某月某日 毎日、死化粧: 100歳のつぶやき

某月某日 自慢話: 「個人の尊厳と価値」を守るために

某月某日 占い師:なぜ占いが当たるのか?

 

第3章 すぐ辞める人、まだ辞められない人

某月某日 ズルイ仕事:よい施設の見分け方

某月某日 1週間で辞めた: 「僕、無理な気がします」

某月某日 口癖:ありがとうの人、ごめんなさいの人

某月某日 赤ちゃん言葉:子ども扱いの弊害

某月某日 意地悪:ターゲットはいつも若い女性職員

某月某日 なぜ逃げる:ただ逃げたかった

某月某日 ババアは盗む、ジジイは…:男と女は脳の構造が違う

某月某日 寄せ書きの涙: 「私、いい人? 」

某月某日 羞恥心:まるで女学生のような

某月某日 嘘のテクニック: 「あんた、泥棒なの? 」

 

第4章 底辺からの眺め

某月某日 失禁とプライド:励ましの作り話

某月某日 3大欲求:最後の晩餐を何にするか

某月某日 ×××に刺青:人は見かけによらぬもの

某月某日 奇妙な訪問者:認知症か、それとも…

某月某日 施設選び:入る側と受け入れる側の視点で

某月某日 コロナなべの中には:思いもよらぬ逆転現象

某月某日 「先生」と呼ばれて:ホラとホラの間に

 

あとがき――それでもなぜ続けているか

「ほうほう」「ふむふむ」