5月9日、都内某所で行われた「戸松 遥“コンプリート!サメ・スタンプ押し会”」に参加してきました。

戸松さんの3rdアルバム「Harukarisk*Land」の発売記念イベントの一環として催された「サメスタンプラリー」を完走した応募者の中から抽選で選ばれた人だちが、この日、最後のスタンプを押してもらって真の完走者になるという、前代未聞の、恐らく日本初の試み。



都内某所、定刻。イベント開始に先立ってスタッフの方が内容の説明を始める。

要約すれば、番号順に呼ばれて壇上に行き、ステージで待つ戸松さんの前へ。一言二言(約10秒)お話して戸松さんからスタンプの押された台紙を受け取る。

なんとシンプルであろうか。

しかしそこには1つの問題がある。

戸松遥との約10秒間の会話。

いったい何を話せばいいのか、である。

普段あまりこういうイベントに参加する機会の少ない私は、この「約10秒の会話」に内心うろたえた。もっと早くに教えてくれれば、いや、こういったケースを想定できるくらいの経験があれば事前に対策も考えていたのに。行き慣れたライブが遠隔戦であるならば、今日のイベントは接近戦だ。しかも相手が戸松遥となればノーダメージで切り抜けることなど至難の技。最悪の事態(他界、もしくは推し変)も想定せねばならない。それだけの相手なのだ。

ここから私の頭脳は猛スピードで回転を始める。いかにして彼女の猛攻(笑顔)を防ぎ、尚且つそれらをかいくぐりこちらの反撃(小粋なトーク)を叩き込むことができるのか。

そこで私は今までの記憶、経験、知識を思い返していると、過去に類似したケースに思い至った。高垣彩陽さんの握手会である。2年前の唯一と言っていい接近戦の記憶である。
あの時ももちろん緊張していたが、初めてにしては事前に考えていたことは言えたし、相手のリアクションも楽しむ余裕があった。あの時見た景色、触れた手の感触は今でも鮮明に思い出すことができる。

ならば、いける。


壇上ではスタッフの説明が進んでいる。私の順番はほぼ真ん中くらいなのでまだ少し時間はある。今のうちに揃えられるだけの武器(ネタ)を用意せねば、と相変わらず黙考していると、そろそろ戸松さんを呼び込みましょうという流れに。

そういえば都内某所のイベントだと呼び込む時の名前を募集して決めていたな、と思い出す。しかし今はそれどころではない。これから生きるか死ぬかの戦いに臨むというのにそんなことにかまけてはいられない。武器(ネタ)を、必殺の武器(ネタ)を準備せねば…


と、心ここにあらずな私の耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。


「サメクイーン!」


あの声は…客G!?


客Gとは、都内某所のリリースイベントに現れては自らの呼び込み案を披露し爪痕を残して帰って行くという恐ろしい客だ。このままでは1つめの案である「ツマグロ」との一騎打ち。「ツマグロ」には申し訳ないが分が悪い。まず「サメクイーン」が採用されるだろう。そうなると客Gの思う壷だ。何とかせねばならんが辺りを見回しても他に意見が出そうもない。この流れはマズい。

サメクイーン…

サメ、クイーン…

サメ…

シャーク!

その瞬間、「他にどなたかありませんか~?」というスタッフの問いかけに私の右手が反応していた。


「シャー…クイーン!」


かくして決戦投票の末、後出しの利を活かして「シャークイーン」が採用され、私も都内某所に1つの爪痕を残すことになったのだが、自らの心にも若干の傷跡が残ったことは否めない。

ああ、彼はいつもこんな思いをしていたのか…

ありがとう、そしてごめんね、ギタ郎さん…


思いがけないトラブルに巻き込まれ(に行っ)てしまった私に残された時間は少ない。早く手持ちの武器(ネタ)を整理しないといけない。


さて、どうしよう。

無難だがアルバムの感想でも言おうか…
先日の「ココロハルカス」でOAされた“10年前の手紙”がとてもおもしろかったのでその事を話そうか…
近々戸松さんが出演される舞台のことを楽しみにしているとでも言おうか…

どれもアリなのだが、みんなと被ってしまうということに抵抗がある。私の前に上記の話をする人は恐らくいるだろう。そうなると彼女にダメージを与えることが難しい。何かオリジナリティのある武器(ネタ)はないか。こんなことでは戸松さんに私の一撃は届かないのではないか。乾坤一擲、渾身の一撃を繰り出さなければ…

順番がせまる中で尚も考えていると、私のところまであと少しというところで1つの答えに辿り着いた。

今しがた起きた出来事。私にしか使えないオリジナルの武器(ネタ)。

それは…

「シャークイーン」


土壇場で覚悟を決めた私は壇上へ一歩、また一歩と近づく。

何度となく参加したライブでは立ったことのない最前席のライン。

更にその先へ踏み込む。

近い。

イスに座っている彼女はとても小さく華奢に映る。

しかしその線の細い身体からはキラキラとした笑顔とエネルギーが溢れている。

危険だ。

ステージの端から見ているだけで吸い寄せられそうになる。

なんとか持ちこたえたものの、もう次は私の番だ。覚悟を決めるしかない。



スタッフに促され、ゆっくりとステージ中央に歩み寄る。なんという強い引力。視線を奪われる、身体の自由がきかない。戸松さんの左右にはマネージャーと思われる男女がそれぞれ立っているはずなのに視界には戸松さんしか映らない。少しでも気を抜いたら最後、その圧倒的なまでのエネルギーに飲み込まれ、満開の笑顔に魅せられ、軽やかな声音は私の心を、琴線を鷲掴むだろう。そうなっては為す術がない。せめて、何かここにも爪痕を残さなくては意味がない。

そんなこちらの決意を知る由もない彼女は、あの夏の向日葵のような輝く笑顔でこう言った。


「こんにちは~」


私は何と浅はかだったのだろう。今まで散々考えてきたことなどまったく役に立たない…

これが…これが接近戦か…

暴力的ですらある可愛いらしさの前に意識を根こそぎ刈り取られる。その場で立ち尽くし、このまま見つめていたい衝動に駆られる。しかしギリギリのところで何とか我に返ることができた。

先程まで私に向けていた視線を逸らし、戸松さんが台紙にスタンプを押す。

チャンスはここしかない。


P「こんにちは“シャークイーン”。名付け親でございます」

戸「あ!そうなんですか~!」

P「著作権フリーなんで、使う機会があればご自由にどうぞ」

戸「あははっ、それじゃあどこかで」

P「(あれ…まだなの…?)」

戸「(一瞬“?”みたいな表情)」




体感的には10秒かと思ったのだがまだ時間があったらしい。しかしここから何か話し始める時間は残っていなかった…


そんな“やらかし”にテンパりながら、最後に「ありがとうございました」とお礼をのべて台紙を受け取り無事(?)終了。


実際にはつっかえるやら噛み倒すやらのグダグダで、爪痕は私の心に深く刻まれましたとさ。