とある12月の日曜日。例によってお馴染みである西高東低の気圧配置のおかげで今日も暖かい。

休日である今日は、これまた例によってお馴染みである遅めの朝・昼兼用の食事を終えたところである。


昨夜は愛生が深夜になってから急に「シザーハンズ観よう!」と言い出したため夜更かししてしまったのだ。確かにあれは冬になると観たくなる。いい映画だ。彼女はジョニー・デップが好きなのだ。


台所で食器を洗いながら、愛生は独り言のように呟いた。


「髪、伸びたよねー」


聞こえはしたが、敢えて返事はしない。


「切ってあげよっか」


「んー、大丈夫だよ」


確かにそろそろ髪を切りたいとは思っていたが、それは美容師に切ってもらいたいのであり、愛生に頼もうと思っていた訳ではない。


彼女は確かに手先が器用ではあるが、そこはやはり素人ゆえにバランスがおかしかったり切り残しがあったり、と細かい部分で行き届かない面は否めない。

さすがにマンガのように、こっちを切りすぎたからあっちも長さを揃えなきゃ…などとやってるうちに目も当てられなくなりました、などということになったことはないが。


ないが、以前どうしても切ってみたいというので髪を切ってもらったことがある。彼女自身はそれなりに満足したらしく、終始ご機嫌だったのだが、当事者である私からしてみると色々と気になる箇所があり、結局その場では穏便に済ませ、後になって自分で微調整したのだ。


そういう経緯もあり、先程の「切ってあげよっか」という言葉に対してはちょっと慎重に対応せざるをえないのだ。無碍に断る訳にはいかず、さりとて急に美容院に行ってきたら、それはそれで角が立つ(ような気がする)。


さて、この場をうまく乗り切り、かつ彼女の歪んだ「シザーハンズ熱」のほとぼりを冷ます手立てを考えねば、などと思っていると…


「ねえ見て見て!これ、買っちゃった!」


洗い物が終わった彼女がいそいそと持ってきたのは美容師が使っているようなはさみ。


「どうしたの、これ」


「いいでしょ~。今度髪を切る機会があったらと思ってね、買ってあったの」


なんということだ。

どうにかしてこの局面を打開せんと思案している私をステンレスの光沢が嘲笑っているようではないか。

はさみを手にしている本人は満面の笑みだが。


さすがに外堀を埋められてしまってはお手上げ、と観念した私はしぶしぶ散髪を決意したのであった。



リビングにレジャーシートを広げ、イスを用意する。そのイスに腰かけ大きめのテーブルクロスを襟の中に入れ、即席美容室の完成である。頭にふと「斬首刑」の映像が浮かび上がったが、無理やり追い出すことにする。まあ、実際そこまで下手な訳ではないので心配はしていないのだが。


そういえば、今日は「letter writer」のMCのような白いシャツを着ていて、それこそ美容師みたいだな、などと考える。


「今日はどうなさいますか?」


「じゃあ、おまかせで」


などと言いながら他愛もない会話を続ける。

彼女のはさみは小気味よい音をたてながら私の髪を切ってゆく。

あまりに迷いがないのが不気味だが、あとは座して待つだけ。


そんな緊張感が伝わってしまったのか、彼女が悪戯っぽい笑みで問いかける。


「な~に?不安なの?」


その自信の根拠がわからないから不安なのだが…。



彼女への答えのような、おまじないのような。


小さな声でやさしく呟く。


「大丈夫だよ、笑ってるよ」





というような夢を見たので、散髪してきました。