暦の上では、秋ですが残暑は続きそうですね。
最近人肉を食べて問題になりましたが、戦時中はあったそうです。
今では信じられないけど、犬や猫を食べて飢えを凌いだ例は枚挙にいとまが有りません。
私が修行中に聞いた話ですが、ある地方から出征した兵士が中国で孤立無援の部隊にいたそうです。
部隊長から、これを喰え。ある肉を渡されました。
焼いてありましたが、美味しい肉でした。
残った兵士は、食糧が底をついて戦死した仲間の肉を食べて命拾いしました。
この時は運良く味方が助けてくれました。
しかし、この兵士は一度食べた人肉の味が忘れられずに、密かに仲間の死体を食べていました。
日本に部隊再編の為に戻りました。
この兵士の実家は裕福でした。
自分の家の家畜を殺して我慢していましたが、ある時一線を越えてしまいました。
土葬の風習が残っていた地域です。
ある若い奥さんが急死しました。
土葬にされた夜、兵士は、いや春樹は欲望を抑えきれずに死体の肉を貪りました。
内臓を食べたのが祟りました。
肝臓が当たったのです。
しかし、一命はとりとめましたが、追放されました。春樹は兵士としての任期の途中に脱走しました。
鉄砲の弾を大量に持ち、数丁の38式歩兵銃を持って山の中に消えました。
山に山菜や薪を取りに来る人間を射殺して、その肉を食べていました。
逃げきった人が言いました。
あいつは人間じゃない悪魔だ。
春樹は人間の心を無くしていました。
そんな春樹には、いつしか悪霊が取りついていました。
帝国陸軍も悪い噂を聞きつけて特殊部隊を派遣しました。
直ぐに追い込んで射殺したはずが、何発弾丸が命中しても倒れません。
逆に2人が射殺されました。
この特殊部隊を率いていたのは、春樹に人肉を食べさせた部隊長でした。
あの正確な射撃は、春樹しかいない。
奴は射撃だけなら、帝国軍では一番の名手だ。
奴がいたから部隊が全滅しないで助かったのだが、今や恐るべき悪魔になってしまった。
奴を人間に戻す手段を考えよう。
当分、あの山への立ち入り禁止を命じろ。
物資と補充兵を司令部に要請しろ。
3日後に、物資と補充兵が来ました。
やはり、貴官が来てくれたか。
1人の僧侶が補充兵の一員としてやって来ました。
師団長閣下が心配していましたよ。
関東軍の耳に入ったらしいです。
だから、貴官を寄越してくれたのか。
部隊長は、僧侶にこれまでの経緯を話しました。
最悪ですね。
僧侶は頭を抱えました。
その夜、春樹が山を降りて民家を襲って人肉を食べたと報告が入りました。
僧侶は部隊長に射撃の優れた兵士を呼んで下さい。
そう言いました。
この銀の銃弾を頭に撃ち込んで下さい。
それなら私がやろう。
部隊長が弾を自分の銃に込めました。
被害者を見て驚きました。とても人間の所業とは思えない残虐さでした。
もはや人間の心を亡くした悪霊ですね。
早く退治しないと被害者が増えます。
今なら、犬を使えば後を追えます。
軍用犬を動員して春樹の後を追いました。
ダーン
先頭を歩いていた兵士が撃たれました。
春樹が待ち伏せしていました。
この禍々しい霊気はまさに悪霊の証拠だな。
僧侶は印を組んで呪文を唱えました。
春樹の動きが止まった瞬間に部隊長が春樹の眉間に銀の弾丸を撃ち込みました。春樹は倒れました。
悪霊が春樹の身体から出て来ました。
畜生、もっと人間を殺して肉を喰いたかったぜ。
その瞬間、雷が悪霊を直撃して消滅しました。
春樹の身体は焼かれました。
部隊長は、遺骨を持って遺族に渡そうとしましたが拒否されました。
春樹は、一門の恥だから入れる墓など無い。
あんたも消え失せてくれ。金の入った封筒を渡されました。
結局、僧侶の寺で供養されました。
その時の部隊長は出家して修行僧になりました。
去年までは一緒に修行していたと仲間が教えてくれました。
人肉には、魔力がある。
禁断の味だよ。
元、部隊長が一度だけ言ったそうです。