昨日、有記の日記を読み返していたら、その下から紛失したと思っていた銃刀法の刀剣所持許可証と理容師の免許証が同じ段ボールに入っていました。
私と政宗さんは同時期に銃刀法に受かりました。
伝来の銘刀を宗家から頂きました。
理容師の免許証を取った後で、私は修行先の先輩の陰険な意地悪に腹を立てて、関節を締め上げて失神させてしまいました。
正直言って、首の骨を折ってやろうかと思いましたが、それだけは我慢しましたが、その店を辞める事にしました。
その店は理容師組合の役員の店でしたから、もうこの業界ではやっていけないし、こんな屑野郎の下風にたつのが嫌だから、キッパリと足を洗いました。
家に帰って来たら、母親は激怒しましたが後の祭りです。
ほとぼりが冷めるまで、政宗さんの家に厄介になり、宗家の手伝いをしていました。
要するに、電話番みたいな事をしながら議員秘書見習いをしていました。
後援会の幹部は知り合いですから、宗家の代役は勤まっていました。
この頃は丁度バブルが弾けて、いろいろな不動産が安い値段で、売りに出ていました。
宗家は、バブルのピークで株を売り抜けて儲けを不動産に廻す予定でした。
バブルの崩壊を予知していた宗家は、儲けを金庫に寝かせていました。
株の儲けの税金を納めてもまだ資金力はありました。そして、いろいろな物件を調べていた中に、東北の老舗旅館が売りに出ていました。
値段も安いし、老舗旅館なら集客も見込めるからと話を進めて行きました。
しかし、宗家が行こうとすると不幸やパーティーなどが入って行けません。
そこで、私と政宗さんと信光さんが行く事になりました。
更に、この話を丹沢大僧正にしたら、同行したいと言ってくれました。
宗家も大僧正には、旅館のお祓いを頼むつもりでしたから、渡りに船でした。
2月3日の節分大祭を丹沢で行いました。
翌日は、寺の掃除や片付けをしたあと4人で東北へ向かいました。
途中で、大僧正の弟弟子の寺に一泊しました。
そこは、鹿沼でした。
この土地には、私の母親の従兄弟など親類が多数いて、偶然檀家総代が母親の従兄弟でした。
電話をしない訳にはいかないから、連絡すると直ぐに来ました。
話が長くなり、出発が昼過ぎになってしまいました。目的地に着いたのは、8時過ぎた頃でした。
途中でコンビニのお握りを買って車内で食べて行きました。
更に夜食のパンをこっそり私と政宗さんは買いました。
旅館に着くと、番頭らしき人が迎えてくれました。
女将さんらしき人もいましたが、挨拶はしませんでした。
部屋に通されました。
流石に、老舗旅館だけあって造りは立派です。
欅や檜をふんだんに使ってあります。
しかし、雰囲気が悪い旅館でした。
部屋につくなり、大僧正は横になりました。
少し仮眠を取るぞ。
どうやら、とんでもない所を買ってしまったな義政殿も。
お前達も1人は仮眠を取っておけ。
運転手をしていた私が仮眠をとりました。
皆疲れているから、直ぐに寝ました。
草木も眠る丑三つ時になりました。
ミシ、ミシっと廊下から音が聞こえて来ました。
音が消えて、襖が開きました。
鎧兜に身を固めた武者が数人立っていました。
胴には揚羽蝶の紋がありました。
平家の紋です。
政宗さんも私も甲斐源氏の流れを汲む一族です。
死ねや、源氏の者共。
地獄の底から響く冷たい声がしました。
蝋燭に火を点けろ。
大僧正の号令一下匁蝋燭に火をつけました。
全員が経帷子を着用していました。
やはり、幽霊だったか。
我等に何の恨みがある?
我等平家の恨みを思いしれ。
いきなり切りつけて来ましたが、交わして逆に切りつけました。
加治祈祷をしてある銘刀だから切れました。
しかし、それでも立ち向かって来ます。
奥の手を使うしか無いな。蝋燭を倒して、旅館を燃やしました。
不動明王の業火を喰らえ。落ち武者達は次々に焼かれました。
それでも、私達に攻撃しようとします。
首を切れ、政宗、昌昭。
意外と首は斬れないものです。
江戸時代の打ち首も、抜刀術ができなければ失敗例もあります。
旅館全体が燃え出したから逃げました。
最初から靴は部屋にあったから良かったです。
旅館から落ち武者が来ないように、大僧正が結界を張りました。
断末魔の悲鳴を上げて、落ち武者達は焼かれて行きました。
その頃になると、夜は明けて、辺りは明るくなり始めていました。
鹿沼に戻ろう。
大僧正の指示で鹿沼に戻りました。
政宗さんが宗家に旅館が焼け落ちたけど保険には入っていたか電話で確認しました。
すると、政宗、あの旅館は二年前に、経営不振で家族揃って焼身自殺したらしいぞ。
あの写真やファイルは、それ以前の物で、私は温泉が欲しいから場所を見てこいと言ったんだよ。
山奥の一軒家の老舗旅館があった場所に同じような名前の旅館を建てれば、客はくるかと思ったけど無理か?
私達が見た旅館、あれは一体何だったのだろうか?
どうして、あの旅館を宗家が買う気になったのか?
あの番頭と女将は何者だったのだろうか?
未だに謎です。