春雨の中で写真を撮影した事がありますか?
シトシト降る春雨は身体を一番濡らします。
春は出逢いと別れの季節ですが、失恋と自殺の多い季節でもあります。
まだ、私が若い頃でした。もう二十年くらい前になりますが、信濃の親友の家に遊びに行った時に、人探しの依頼が消防団に出ました。
そこの人達も過疎化で、団員不足でしたから、私も天城山で人探しの経験者だから応援として参加しました。
人探しは人海戦術が必要だから、人数は多い方が発見が早いです。
そうしたい思いも虚しく、私を含めて総勢12名の消防団と警察官で山に入りました。
4人一組での行動でした。私は親友と同じグループで、残りの2人も親友の知り合いで、私とは面識もありました。
悪いな、遊びに来たのに手伝ってもらって。
これが、探す対象の女性の写真だから見といてくれ。結構可愛い顔しているね。失恋でもしたのかな?
もしかしたら子供が出来て棄てられたとかあったりしてね。
この時、私は冗談で言いました。
すると、1人だけ笑わない人物がいました。
むしろ、顔がひきつっていました。
それぞれのグループが山の中に入って行きました。
一度山頂に出ました。
私も、不思議に思う事ですが、自殺する人達は富士山が見える場所で、首吊る傾向があるよ。
そう親友に言いました。
この山から富士山が見えるのはあそこだけだな。
昌昭の言葉を信用して行こう。
不幸にも、私の勘は的中しました。
天城なら直ぐに降ろし毛布に包みますが、こちらは警察官が来て降ろしました。遺体は、消防団が背負って降ろします。
おい、忠明お前が末席だから背負って行けよ。
途中で私も交代するけどね。
私は、言葉では表現出来ない不安感を感じていました。
さっき笑わなかった忠明とこの女性には何かしらあったのではないか?
遺体の懐にあった遺書は警察官から遺族に渡される事になっていますから、私達は内容を知りませんでした。
しかし、知っていたら惨劇は防げました。
忠明と親友を前にして下山を始めました。
春雨が降りだして来ました。
少し雨宿り出来る場所に入りました。
そして、私がカメラで北アルプスの雨模様を一枚撮ったついでに中にいる4人を撮りました。
その時に悲劇が起こりました。
忠明、あんたも一緒に死ぬのよ。
私に子供が出来たとたんにさよならなんて言わせないわ。
あなたが結婚するという言葉を信じていたのに、まさか妹と結婚するなんて許せない。
私は金縛りに近い状態でした。
親友ともう1人の男性も同じように動けませんでした。
女は忠明の首根っこを掴んで断崖絶壁から飛び降りました。
その直後に金縛り状態が解けました。
後続の警察官も数人飛び降りた瞬間を見ていました。実は、女性が死んだかどうかまだ確定してない状態で下山させていたから、警察官が後から来たらしいのです。
私も不思議に思っていたのは、まだ体液放出と死臭がなかったから、本当に死亡判定出来るかが問題でした。
麓には、救急車が待機していました。
生存を期待しての事ですが、虚しく役立たずに終わりました。
忠明のやった行動は、女性にしては許せないでしょうね。
自分を妊娠させておいて、別れただけならまだしも、妹と結婚するなんて、しかも妹は全てを知っていて結婚すると言われたのです。姉妹の仲は悪かったそうですが、これでは姉は、いたたまれません。
2人の遺体は、回収出来ない場所に落ちてしまいました。
ヘリコプターも入れない、狭い断崖絶壁です。
後日、山岳警察が回収したそうですが、獣に肉を食べられて無惨な状態でした。私が撮った写真は、二枚とも心霊写真でした。
一枚には、死神が写り混んでいました。
丹沢大僧正に見せたら、ネガごと焚き上げを命じられました。
雨の写真の中には、無念の涙の女が写りやすいから、雨の日には写真は撮るな。そう説教されました。