夏が来ると、いろいろな怪談を思いだしますが、やはりこの話はインパクトが強いですね。
いかに未練がましいのが危険なのか?
改めてそう思う怪談です。信光さんは、私の同族でヤクザだった利光の兄貴ですが、生前の政宗さんの片腕と言われた人です。
信光さんにも彼女がいました。
優しくて思いやりのある女性でした。
お笑いの、にしおかすみこに似ていました。
理未さんと言いますが、独占欲と性欲が強いのが珠に傷でした。
ある時、政宗さんが私に言いました。
理未は悪い娘ではないが、このままでは、信光の身体が持たないだろうな。
苦々しい顔でそう言いました。
確かに、理未さんには好色の相がありました。
ところが、理未さんが旅先で不慮の死を遂げてしまいました。
この旅行は最後の家族旅行で、その次の週末に結納して同棲する予定でした。
私の一族は江戸以前からの仕来たりで、結納してから同棲して式を挙げるなが慣わしです。
信光さんの落胆ぶりは悲惨の一言でした。
見かねた利光が、気分転換にソープでも行こうと言ったら、半殺しにされたと聞きました。
初七日が過ぎた頃、変な噂が流れました。
毎晩深夜になると信光さんが理未さんの墓に行って何かしているらしい。
この噂が宗家の耳に入りました。
一門の老人達も宗家に話をしたそうです。
噂だけならまだしも、一門のうるさ方が動きだしては宗家も動かざるをえなくなりました。

後編に続く