昔から、交通の難所、要所として名高い箱根山。
南北朝時代の箱根竹ノ下の戦いや秀吉の小田原攻めで最大の激戦で、城兵のほとんどが戦死した山中城などあります。
そんなところですから、供養されていない、無縁仏が沢山あります。
そんな無縁仏の怨念が一つの悪霊を産みました。
小梅と名乗るこの女こそ、カラスと猿を使い、箱根を旅する人達にとっては、まさに魔物でした。
一見すると、ただの美女ですが、自分の小屋に連れ込んで、男なら歓喜を尽くした後に殺しました。
女なら、睡眠薬の入った食事で寝たところで、腹を裂かれて肝臓と子宮を食べられてしまいました。
若い女の活き肝と子宮ほど美味いものは無い。
小梅は満足そうに、口についた血をぬぐっていました。
何人もの行方不明が出たくらいですから、箱根を領地にする小田原藩も捜索して小梅を捕らえようとしましたが、猿とカラスが小梅に危険を知らせて、逃げてしまいます。
さらに、小梅の顔を知ってる人間がいないのがネックでした。
やがて、この話は将軍家光の耳に達しました。
そして、老中松平信綱と大目付柳生宗矩に成敗するように命令が降りました。
2人は、柳生屋敷で作戦を考えてみました。
柳生宗矩の手下の忍者がいろんな情報を集めていました。
化け物は、複数の拠点がある事と、誰を狙うかは猿が選んでいて、カラスが空から監視している事がわかりました。
まさに、難問ですな。
松平信綱が思案しているところに、宗矩の長男、十兵衛が姿を表しました。
父上、伊豆守様、江戸にみえた勅使の中に陰陽頭の安部治明様がいらっしゃいます。
お力添えを願ってはいかがですか?
その手があったか。
松平信綱は、勅使屋敷に参上しました。
今回の武家伝奏は、水戸家と所縁のある近衛信嗣でした。
2人とも理由が理由だけに力を貸してくれる事になりました。
翌朝、柳生親子と信綱と治明は小田原に向かいました。
小田原に着くと、大久保相模守が待っていて、小田原城に入りました。
城の天守閣に登り、箱根山を眺めて、治明は言いました。
山全体が禍々しい。
私達だけでは、勝てません。
伊豆の修禅寺に真言宗の名僧がいます。
彼を呼びましょう。
そうした話をしていると、安部様、牧野秀雲と名乗る僧侶が目通りを願っています。
ここへ通して下さい。
早速、牧野秀雲は現れました。
治明殿、久しぶりですな。先日、お大師様が夢枕に立たれてな、小田原に貴殿が来るから、力を貸せと仰せになったのじゃ。
秀雲殿が加われば、勝ち目が出ました。
ご老中、今回の件は値が深いです。
事後処理は懇切丁寧に願います。
その晩は作戦を立ててから眠りに着きました。

以下後編に続く