別離

三月三日、雛祭りです。
去年の今日、私は有記と
結納、婚約をしました。
今日は、有記の実家に招待されて、有記の妹の雛祭りの宴会に出席しました。
私が、正装で、手土産を持って、玄関を入ると、今年90歳のお祖父さんが出迎えてくれました。
いつ見ても連隊長閣下にそっくりですな。
私の祖父は、戦争中、連隊長で、有記のお祖父さんは部下でした。
私と有記が会ったのは、祖父の葬式でした。
有記は、お祖父さんの付き添いで来ていました。
私が立って、お客様の整理をしていた時に、お祖父さんが、私に、連隊長閣下に瓜二つですね。
そう声をかけたのが出会いでした。
昌昭さん、今日はたっぷり食べて下さい。
皆で、いろいろな話をしていました。
宴も終わりに近づくと、有記のお父さんが盃を持って私の所に来ました。
昌昭さん、私は本当に貴方を婿にしたかった。
私が、有記に、五年付き合ってまだ孫できないのか？と言った時に、昌昭さんは、お義父さんすいません。私の種が薄いから子供が出来ません。
すかさず言った一言が嬉しかった。
有記は、愛されていると実感しました。
それに、貴方は毎月一度は有記の墓参りを欠かさずしてくれました。
その気持ちは、とても嬉しいです。
この一年間、本当にありがとうございました。
この、水盃で全てを流して下さい。
貴方は、家を継ぐ方です。世継ぎを造らなくてはいけません。
私は、黙って水盃を飲み干しました。
本当に、今まで有記をありがとうございました。
私の心に、有記は一生残ります。
私は、土下座して言いました。
涙が畳を濡らしました。
お祖父さんが、昌昭さん。貴方を孫と呼びたかった。貴方に愛され有記は幸せでした。
唯一残念なのは、有記のお腹にいたひ孫を見れなかった事だけです。
私は、返す言葉が有りませんでした。
また、いつか来て下さいね。
姉は待っています。
有記の妹に言われました。お墓参りには、これからも折を見て来ます。
どうか皆さん、お元気で。そう言って、有記の家を後にしました。
この家の敷居を跨ぐ事は、もう無いでしょう。