寅さんから学んだ大切なこと㊿

フーテンの子寅こと　皆川一

恩師、フーテンの寅さんこと渥美清さんに初めてお会いしたのは、わたしが中学3年生15歳の時、渋谷のNHK放送センターの大食堂で行われた付き人のオーディションの時でした。

大手芸能事務所から選抜された30人以上の付き人候補が大食堂に集まり、渥美さんとの初対面。当のわたしはまったく選ばれる気も、自信もなく、ただ芸能人を間近に見れて、面接が終わったらNHKの食堂で格安のラーメンを食べることが主たる目的でした(笑)

ところが運命とは分かりません。たぶん一番年少で、坊主頭で、受かる気のないわたしが渥美さんの目に留まり、晴れて国民的な俳優、渥美清の付き人になってしまったのです。

面接の翌日から早速NHKに向かい初仕事でした。右も左も分からない１5歳の子供がいきなり大人の世界に放り出されたのです。衣装や小道具の確認、台本のチェックと生まれて初めてやることばかり、緊張のあまり初日の帰り道、食べた物をすべて吐いてしまいました(泣)

その翌日、渥美さんの楽屋入り時間の1時間前に局に行ったところ、なんと既に主演俳優の渥美さんが楽屋に居るではありませんか。時間を間違えたのかとスケジュール表を見直しましたが間違っていません。のちに分かったことですが、渥美さんは通常の楽屋入りの2時間前には撮影現場に来る稀有な俳優さんだったのです。付き人のわたしはたまりませんでしたが(笑)

渥美さんより1時間遅れで楽屋入りしたわたしに渥美さんは「ハジメ君っていったかな？いいかい、必要とされる人と、そうじゃない人の差は何かわかるかい？」と・・・正直全く分かりませんでした。

そんなわたしに渥美さんは「必要とされる人とは、決して使い勝手の良い人を言うんじゃないんだね。どれだけ相手のことを考え、気遣い、その生き方に共感出来るかどうかなんだね」・・・この渥美さんの言葉でわたしの付き人人生の指針が明確に決まりました。

それ以来、渥美さんにとって自分が必要とされる存在になるために、わたしは徹底して渥美さんのことを考え、気遣い、その生き方に共感することに多くの時間を割きました。

お陰で当時、街に貼ってあった松竹映画「男はつらいよ」のポスターに思わず「はい！」と返事をしてしまう変な少年になっていました(笑)

付き人になって数年後、渥美さんと二人で食事をしている時、渥美さんがふと「なぁ、ハジメ、お前を坊や(付き人)にして本当に良かったよ」と言ってくれた瞬間、不覚にも涙が溢れ泣きながらトップスのカレーを食べたことを昨日のことの様に懐かしく思い出します。

あの時、やっと渥美さんに必要とされる存在になれたかも・・・と思えた瞬間でした。

次回は渥美流「自然な生き方」についてお話させて頂きます。51へつづく・・・

＃フーテンの寅さん＃渥美清＃寅さんから学んだ大切なこと＃皆川一＃七転び一起き