原書で読む世界の名作 265  翻訳修行 

「海辺のカフカ」 村上春樹 新潮文庫
「Kafka on the Shore」  01 Translated from the Japanese By Philip Gabriel Vintage  

 2024 03 06 (Wed)
 
【村上春樹】:1949 年京都府生まれ、早稲田大学文学部卒業。作品は34の言語に訳される。谷崎潤一郎賞、読売文学賞。 
【Philip Gabriel】: アリゾナ大学正教授。日本文学の研究者、翻訳家。村上春樹の作品の主要な英語翻訳家の一人として知られる。 
 
 The Boy Named Crow 
 
 "So you're all set for money, then?" the boy named Crow asks in his characteristic sluggish voice. The kind of voice you have when you've just woken up and your mouth still feels heavy and dull. But he's just pretending. He's totally awake. As always.
 I nod.
 "How much?"
 I review the numbers in my head. "Close to \400,000 in cash, plus some money I can get from an ATM."
 
 set for = 準備する、とっておく。
 sluggish voice = のっそりした声。


 カラスと呼ばれる少年 
 
 「それではお金のことはなんとかなったんだろうね?」とカラスと呼ばれる少年は言う。 いくぶんのっそりしていた、いつものしゃべりからだ。深い眠りから目覚めたばかりで、 口の筋肉が重くまだうまく動かないときのような。でもそれはそぶりみたいなもので、 じっさいは隅から隅まで目覚めている。いつもと同じように。
 僕はうなずく。
 「どれくらい?」
 もう一度頭の中で数字を確認してから、僕は答える。「現金が40万ほど。そのほかに カードで出せる銀行預金も少し。もちろんじゅうぶんとは言えないけど、とりあえずはなんとかなるんじゃないかな」」
 
 何の説明もなくいきなり、「カラスと呼ばれる少年」が登場する。
 カフカとはチェコ語で「カラス」。ここでは、カフカの分身で、ニックネーム。自分自身と会話をしている。

 
 つづく