清涼院流水 『コズミック 流』
中井英夫全集 『黒鳥譚』 を読み、独特の美に触れ、
中井英夫の戦中に書かれた日記を読み、涙がぼろぼろとこぼれる。
御察しの通り、まるで渦に飲み込まれるかのように、気持ちは沈む一方。
まさにダウンワードスパイラル。
こんなときどんな作品を読んだら楽しいだろうか・・・
否、こんなときじゃないと楽しめない作品を読もう!
そう思い立って読み始めた作品 清涼院流水さんの 『コズミック 流』
良くも悪くも世間の評判を勝ち得た怪作に挑戦してみました。
- 清涼院 流水
- コズミック流
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「1年に1200人を密室で殺す」警察に送られた前代未聞の犯罪予告が現実に。1人目の被害者は首を切断され、背中には本人の血で「密室壱」と記されていた。同様の殺人を繰り返す犯人「密室卿」の正体とは?推理界で大論争を巻き起こした超問題作。第2回メフィスト賞受賞。
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ドラマであることをドラマにする、そういう作品をメタドラマという。 (僕はそう理解しています)
それと同じ考え方でいくと、この作品はメタミステリになるのかもしれません。
中井英夫の 『虚無への供物』 に現代新本格の流れ、その原始の一滴を見ることができるならば、
この 『コズミック 流』 は底の見えない奔流に巻かれる一個の渦だと思います。
同じメフィスト受賞者の 霧舎巧さんの 《あかずの扉研究会シリーズ》 がストレートな新本格ならば、
第二回メフィスト賞を受賞した 清流院流水さんの 《コズミックシリーズ》 は変り種です。
しかし、変り種でありながら別物ではない、そんな本格風味もあるのだからおもしろい。
《読後感想文》
人物が描けていない、そう批判がされる書き方がされているかと思います。
しかし、この世にどれだけ人物が描けている小説があるだろうか。
まして推理小説に関して言えば、どんな作家にも当てはまる都合の良い批評だと思います。
僕個人の意見としては、人物描写なんてこれくらいがちょうど良いと思います。
本書で予告された被害者の数は1200人、一日三人ペースで人殺しをするわけだから凄まじい。
各事件において被害者は一人なわけですが、そこに係る人は二三人。
それだけ大勢の人が係る小説なだけに、人物に対する書き込みや思い入れは自然と薄くなる。
もっとも、この小説に書かれているほど内容のある人生を送った人は少ないと思う。
事実僕はもっと薄っぺらな人生を送り、これからも送り続ける予定ではあります。
なぜ、こんなにこの作品をプッシュしているかと言うと、(一応反転)
被害者1200人という数字になんとなくある仕掛けを感じるからであり、
その仕掛けを有効に活かすためには、人物描写なんて単純であればあるほど良い、
そんな気がしてならないからです。
( 『ジョーカー』 を読んでまったく違うと感じるかもしれませんが )
ただ気になるところも2点ほど・・・
1.ミステリとは接点のない登場人物がやたらとミステリ用語を使うのは・・・
作家さんになるくらいどっぷりミステリの世界に浸ると、日常用語になってしまうのかもしれません。
皆さんも無意識のうちに、ミステリ用語を連呼しているかもしれません。
2.密室の件
犯人・密室卿の名前が示す通り、殺害現場は全て密室と呼べる状況下にあるのですが、
『コズミック 流』 に描かれた密室は、カーの密室講義の範疇から出ないものばかりだと思います。
新しい密室を期待する読者には少々物足りないかもしれません。
『ジョーカー 清』 に期待が高まります。
『コズミック 流』 は物事の発端にしかすぎません。
これから続く 《コズミックシリーズ》 に期待!!