米澤穂信 『夏期限定トロピカルパフェ事件』 | Pの食卓

米澤穂信 『夏期限定トロピカルパフェ事件』

昨日、バレエ鑑賞をした帰りの電車で 『春期限定いちごタルト事件』 を読み終わり、

その後、その日のうちに読破してしまいました。

話の運びがうまく、まるでライン下りを愉しんでいるかのように、あれよあれよと話が進む。

「とりあえず一章」 と読み始めると、三章くらい読んでしまう気軽さがあります!


何の話かというと、米澤穂信さんの 『夏期限定トロピカルパフェ事件』 です。

いやはや、おもしろうござんした。


米澤 穂信
夏期限定トロピカルパフェ事件

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小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を! そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは<小佐内スイーツセレクション・夏>!? 待望のシリーズ第二弾。

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『春期限定いちごタルト事件』 がその名前の示す通り、

いちごタルトのような爽やかさと甘ったるさを感じさせるものであったのに対し、

『夏期限定トロピカルパフェ事件』 は、まさに南国フルーツそのもの。


僕の南国フルーツに対する考え方は、この小説のラストで感じたものと同じであるため、

題名と作品全体が合致した良作だと思ったのですが、皆さんはどう感じましたか?


デビュウ作 『氷菓』 や続編の 『愚者のエンドロール』 にも見られるように、

米澤さんの作品からは 「ミステリのおもしろさ」 を開拓する意思が感じられます

『夏期限定』 からも同じ意気込みを感じることが出来ました。

その意気込みを感じるだけでも本作は買う価値があると思います。


肝心の内容ですが、前作にも増してキャラクター性が高くなったような気がします。

それを評価できるか否かは、各キャラクターに対する思い入れ度に依るかと思います。

僕は地の文に少々のつっかかりを覚えながらも、全体としては楽しんで読めました。


謎に関しては 『春期限定』 の方が熱中して楽しめたかもしれません。

しかし、今回の "シャルロットだけはぼくのもの" と "シェイク・ハーフ" この2つは秀逸!

まあ、"シャルロット~" は出てくる 「シャルロット」 というスイーツがおいしそう!って話なのですが;

それだけじゃない、推理合戦のように静かなバトルもあるので、楽しいですとも。


"シェイク・ハーフ" に関しては、昔からある探偵小説そのもの!

なんだろう、このワクワクする感じは・・・ なんだろう、このページをめくりたくない気持ちは・・・

提示された謎を楽しんで解く、そんなことを思い出させてくれた話でした。

不謹慎な話ですけれど、小説は小説として割り切って、存分に楽しまないともったいないです。


さて今回の目玉ですが、『春期限定いちごタルト事件』 でもそうであったように、

ラストの一話 "スイート・メモリー" に焦点が集まるかと思います。

『春期限定』 を読んだ後や、浮いた一文が目についた方は予測がついてしまうかもしれませんが、

そんなこと無粋に追求せず、思いっきり驚いてみたらどうでしょうか。

驚けた方は絶対に 「おもしろい!」 と思うはず!


さてさて、そんな目玉を通りこし、余談の域に入ります。

「こんなものかな」 と 『春期限定』 ではスルーした問題について (ネタバレ反転):


  小鳩少年と小佐内さんの2人は依存関係でも恋愛関係でもなく、

  互恵関係にあると本文でくどいほど説明されていますが、

  『春期限定』 や 『夏期限定』 を読む限り、どの辺りが互恵関係なのか謎でした。

  「2人は完璧に依存関係にある」、僕はそう感じてしまい、

  地の文を読むたびに違和感をずっと感じ、つっかかりつっかかり読んでしまいました。

  ・・・が、『夏期限定』 ではその違和感が解消されており、とても好印象!

  今回のオチの付け方で、ますます米澤さんが好きになりましたとも。


例のごとく、主観的な感想ですが、個人的に不満が解消されたので、とてもよかった!

春期・夏期と来たならば、おそらく秋期・冬期と続くのかもしれませんが、

続いても続かなくても、このシリーズはおもしろいと思います!


甘党の皆さん、絶対に買いだと思います。