江戸川乱歩 『D坂の殺人事件』 | Pの食卓

江戸川乱歩 『D坂の殺人事件』

かつて 「我国における唯一の探偵作家」 と呼ばれた江戸川乱歩

その怪奇極まる小説を読むと、物語の中へ吸い込まれ、気がつくと一冊読み終えてしまっている。

そんな体験をさせてくれる乱歩さんの語りには毎回驚かされます。

日本人作家の中で最も好きな作家さんの一人です。


先ほど読み終えた 江戸川乱歩 『D坂の殺人事件』 を紹介させていただきます。


Dsaka
江戸川 乱歩
D坂の殺人事件

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日本の推理小説の礎を築き上げたのが江戸川乱歩であるのは異論のないところだろう。その巨人の短編小説の粋を収めたのが本巻である。デビュー間もない時期に発表された「二癈人」を筆頭に、ご存じ明智小五郎が初めて登場した記念すべき「D坂の殺人事件」から、戦後の名品「防空壕」に至る全十編を、初出誌の挿絵を付してお届けする。

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巻末の解題にて編集者の戸川さんが述べている通り、初出にこだわった作りとなっております。

読みやすいように現代仮名遣いに直ってはいますが、注なども詳しく

また嬉しいことに削除前の文章や改訂前の文章なども巻末に載っている!


さらに乱歩さん自身の自註自解と証する解説まで載っており、大変だったでしょう。感涙モノです。

小さい頃、『人間椅子』 という短篇を読み、独特のエロス、居心地の悪さ、這い寄る悪意を感じ、

その後の読書嗜好に多大な影響を与えてくださった乱歩さん。


変態的な短篇が多いため、Pの人格を疑われるかもしれませんが、乱歩さん大好きなのです。

ときどき、その小説群に我が身の分身のような愛情を持ってしまうことすらあります。


今回紹介する 『D坂の殺人事件』 は表題作をはじめとする10話から成る短篇集で、

『日本推理小説全集2 江戸川乱歩』 『孤島の鬼』 そして本書の三冊をもって、

江戸川乱歩の真髄を味わうことができると言われるほど重要な一冊です。

編集なさった戸川さんの熱意が伝わってくる構成でありました! 感激!


四の五の言わず買いなわけですが、とりあえず読後感想文。



《読後感想文》

  二廃人

    乱歩さんが得意とする "無遊病" をテーマにした探偵小説

    大正13年に発表されたにも関わらず、現代においても色あせぬ魅力がある!

    夢・幻・現実の境を越えて生きる "夢遊" の神秘を描くウマさがあります。


  D坂の殺人事件

    いわずと知れた明智小五郎初登場の短篇小説。

    地味だけれど怪異な事件、ぐいぐい引き込まれる中盤、そして意外な解決。

    探偵小説の基本が全て揃っている良作です。 短篇 "心理実験" との関連も面白い。


  赤い部屋

    この短篇集の中でもかなり好きな話。 何度か読んだ記憶があります。

    ルヴェルの 『夜鳥』 に収められているある作品と似たテーマを持つもので、

    そのテーマは乱歩の方がより深く、そしてより稚気溢れるものへとなっています。

    なんと言っても結末の感じが乱歩さんの人格を垣間見るようでイイ!


  白昼夢

    6ページほどのショートショート、それでも内容の濃さは素晴らしい。

    異常性が語られているも、周りの認識とのズレにより、異常性が見過ごされる

    怪奇小説の手本のような話でした。 初めて読んだけれど、これは傑作。


  毒草

    貧困層の悲劇を描いた作品で、淡々とした文章には背筋がゾッとする感触があります。

    犯罪は起きていませんが、主人公の心の中の動きを追っていくと、

    そこには 『罪と罰』 の ラスコーリニコフの恐慌と似たものがある気がする。


  火星の運河

    これは探偵小説ではないです。幻想小説?とでも言ったらよいかもしれません。

    巻末の自註自解によると、乱歩さん自身が見た夢の話だそうです。

    一体どんな悩みを抱えていたのだろう・・・ この夢は観たくないですね;


  お勢登場

    勧善懲悪をよしとする当時の読者たちはどんな感想を持ったのだろう。

    主人公の味わう大苦痛は鬼気迫るものがあります。

    それに対してあくまで無関心な周囲の人物、両者の対立が物語りに不思議な魅力を与えている。


  

    この短篇集の中で一番の問題作なのではないでしょうか?

    のたうちまわる虫、虫、虫。 まさに覚めやらぬ悪夢を感じました!

    結末直前に見せる主人公の精神的動向は、人の本質を鋭く突いた描写といえます。


  石榴

    本格推理小説の手順をカッチリ踏んでいるかと思います。

    しばらくザクロが食べれなくなりそうな話ですが、

    話自体はとても興味深く、一生懸命素人推理を働かせてみました。


  防空壕

    主人公の異常性を空襲で焼ける街並みと照らし合わせることで、関連付け、

    炎のような情欲と火に対する変態性欲が見事に推理小説に組み込まれた例。

    結末の意外性は本当におもしろいものです。



乱歩さんの小説は、事件の怪異性、中盤のリーディング、意外性に富むラスト、

これら三つの要素で成り立っているかと思います。


探偵小説、怪奇小説、変愛、フェティシズム、これらの単語にピンと来たら即効買いです。