綾辻行人 『迷路館の殺人』 | Pの食卓

綾辻行人 『迷路館の殺人』

構造美の追求、迷路のような複雑な建造物を思わせる構造、それが 『迷路館の殺人』 。
本日読了本、綾辻行人さんの 『迷路館の殺人』 とてもおもしろかったです!


綾辻 行人
迷路館の殺人


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奇怪な迷路の館に集合した4人の作家が、館を舞台にした推理小説の競作を始めたとたん、惨劇が現実に起きた!完全な密室と化した地下の館で発生する連続殺人の不可解さと恐怖。逆転また逆転のスリルを味わった末に読者が到達する驚愕の結末は?気鋭が異色の構成で挑む野心的な長編本格ミステリー。

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綾辻さんの 《館シリーズ》 は、その魅力の一つに 《館》 があります。
過去に自らの建てた 「青屋敷」 で不可解な死を遂げた建築家、中村青司。
その中村青司が各地に残した《館》それが何と言っても魅力的なのです。


例えば、第一弾 『十角館の殺人』 では 「青屋敷」 と 「十角館」 が登場します。
どちらも名前の通りの建築物で、全てが青い 「青屋敷」 そして十角形の館 「十角館」。
「青屋敷」 は中井英夫さんの 『虚無への供物』 に出てくる氷沼蒼司の部屋を思わせ、
設定から既にミステリの香り漂うものとなっております。


第二段に出てきた館は 「水車館」 森閑の中巨大な水車が備え付けられた館が佇む…
その光景を想像するだけで、好奇心がわきます。
夜中にゴウン…ゴウン…と回る水車、それだけでも物語性があります。
また画家が住んでいただけあり、画廊を彷彿させる構造にも好感が持てました。


と、このように面白い建物が出てくるわけですが、残念なことに、
僕の頭とセンスでは、これらの建物がその形や性質である理由が見出せませんでした。
《館》 と 「プロット」 が分離している状態にあるように感じます。
おもしろかったので不満ではありませんが、もったいない感じがしました。


しかし!今度の 『迷路館』 ではその不満が解消されていたかと思えます。
この事件現場、やっぱり迷路でなくっちゃ!そう思わせてくれた構造です!
では読後感想に入ります。



《読後感想文》

まず感じたことは、『迷路館』 は黄金時代の作家さんたちを賛美した推理小説
エラリー・クイーン、カー、特にトリックに関しては黄金時代の事件のように感じました。
読んでいる最中 「あー、これは!」 とかそれっぽいものを見つける度に、
「いいね、いいね。」 と一人うなずいていました。
例によって小田急江ノ島線にて不気味な行動をしていたわけです。


そんな本格テイストばっちりの 『迷路館』、構造のおもしろさは建物だけではない。
物語の構成が楽しい! 作中作形式! 作中作中作形式! 作中作中作中作形式!
奇譚社ノベルズから出版された鹿谷門美の小説 『迷路館の殺人』 をある人物が読むわけですが、
その小説内で四人の作家たちが、さらに作品を発表?する感じです。
まるで迷路のように同じ回廊を行きつ戻りつしたりする感覚、これぞ「迷路館」!


今回のテーマは 「ギリシャ神話」、作中いたるところにギリシャ神話のモチーフがあります。
最初は迷路ということで、ダイダロスと単純に組み合わせただけかと思い、
あまり期待は持たなかったのですが、物語終盤、ここで一気にイメージが変わります。
「これはおもしろい!」 と思わず膝を打つこと請け合い。

シェイクスピア劇の登場人物もギリシャ神話にその起源を見ることができたりと、

何かと馴染みのある神話なので、とても好きなのです。


「事件の不可解性」、「はらはらするサスペンス要素」、「意外な結末」
これらミステリの要素はあったように思えます。
なんとなく目星を付けて読み進めていくと、最後の最後で思わぬどんでん返し
新本格ならではの意外性のように感じました。


次巻の 『人形館』 ですね。 『時計館』、そして一番期待をしている 『暗黒館』 楽しみです。