ロールプレイングの成果が少しずつ出始めてきた。
初めてスーツを販売する先輩達も、購入しに来てくれたお客様には普通に販売出来るようになった。
今までスーツを販売していた先輩は、壁にぶつかり伸び悩み始めた。
スーツなどの高額商品は、普通に販売出来るように思われがちだが、お客様は接客している中でいろいろと考えるのです。
特に高額な商品を見ると、
(この値段だったら他の店に行けばもうちょっと安いのがあるんじゃないか⁇)
「値引きしてくれたら買うけど値引きしてくれない?」
と言うお客様が多いのだ。
また、
「いやぁ!これだけ商品を見てると分からなくなってきた。
ちょっと他の店も見てまた来ますから」
と、帰ろうとするお客様も少なくないのです。
ましてや、ブラッと見に来たお客様に販売する事はかなり大変です。
特にお連れ様と来店された場合。
男性が二人以上いるとどちらが購入予定なのか?自分だと分かるような話をしてくれたら最高なのですが、何故か意地悪っぽくそれを分からないようにお客さんはするのです。
そして、購入予定でないお客様に間違って話をし続けた時は最悪です。
さんざん話させておいて、
「買う予定なのは彼だよ」
と突然に言ってくるのです(^^;)
その時の切り返しも大変です。
今まで黙って聞いていた事に反論っぽい話をしてくるのです。
逆に上手くいくと、ラッキーにも二人とも購入すると言う事もあります。
藤川の得意なパターンでした。
お連れ様の殆どは無責任な批評をセールスマンが接客しているのにケチをつけて来る事が多いのです。
それは無視も出来ないのですが、購入予定のお客様への説得とお連れ様への説得と倍の労力が必要になるのです。
やはり、ポロシャツなどの軽衣料を販売するのとは大きな違いがあります。
そのような状況での対応を日頃から藤川は徹底的に教えていたのだが、いざ本番になると経験のなさとセールスマンの人柄が出て販売成功率は5.6割。
その頃の藤川は9割は普通でした。
接客は何かあると日頃から少し強気になってしまう性格の人だと、お客様とケンカっぽくなってしまう。
また、弱気な性格の人は、最後の締めであるクロージングが上手く出来ない。
二人の先輩達は、それぞれがこのタイプだった。
藤川が自分の販売が終わったあと、二人がちょうど接客していた時にセールストークを聞いていると初めの頃はイライラする事が少なくなかった。
お客様と話が噛み合ってないのだ。
泣きそうになって困り果てている時は、何度も助けてあげたいと思った。
それでも、なんとか販売が成功すれば自信がつき元気になるのですが、俗に言うフラれて帰られてしまうと、優に一時間以上は接客していたので、その疲労感とショック度は見ていて可哀想なほどだった。
そんな時、計ったように
「自分達にはやっぱり無理だぁ‼︎」
と、先輩達は落ち込んでいたのだ。
それを見ていた店長は、ある時は激怒ある時は優しく先輩達に接していました。
そして必ず最後は、
「藤川を見習え!」
と言うのだった。
藤川はその時、
(レベルが違うんですけど!)
と、思ったかどうかは覚えていません(^^)
そこで店長が考えた対策は、そのような状況になったら、助けて欲しいと言うサインを藤川に出す事を命じたのだ。
それを聞いていた藤川は、
(えっ〜また!新たな仕事?)
(店長は、一体僕を何だと思っているんだ。今年入社したばかりの人間が先輩に販売を教えるだけでさえ、いろいろな意味で大変で疲れているのに。。。)
と、思った。
また人が接客している時にその間に入って行く自体お客様にも販売員にも失礼なのだ。
ましてや助けるなんて無理無理と藤川は思った。
まして、二十代後半の先輩の接客中に幼顔の僕がどうやって入っていって、助けるなんてとんでもないと思った。
いつになく藤川は強気で店長の話に反対した。
しかし、店長はそう言うなよ的に藤川を説得してきた。
また店長は単純だった藤川に
「商売の天才で、人と接する事に長けているプロに出来ない事なんてないだろう」
と歯の浮くような話をしてきたのだ。
(まぁそう言われればそうですけどねぇ)
と、若い藤川は思ってしまったのだ(ーー;)
そして、見事に大きな成果が出たある作戦が始まった。