高校に入学して始めたアルバイトはガソリンスタンドの店員。

年齢18才以上の募集条件のところ無理を言って、16才の譲二を採用してくれたのです。

面接を担当してくれた店長は社長の息子さんだったため、ラッキーでした。

運転免許も無いのに、だれに文句を言われることもなく採用決定。


しかし、その後が大変だったのです。

ガソリンスタンドの従業員なのに運転免許を持っていないのは、ある意味致命的。

 

バイトの勤務時間は夕方5時から9時まで。

10分前までに入店します。

学校の制服からガソリンスタンドの制服に着替えると少しプロっぽく見えます。

その為、お客さんからちょくちょく

「車動かしておいて」

と、よく頼まれてしまうのです(>_<)



譲二が出社の頃は、昼間働いている人達はみんな仕事が終わって帰っていきます。

「お疲れ様(^^)頑張って!夜は遊びみたいなもんだから、楽でいいよ」

と、みんな声をかけてくれました。

中には、笑いながらイヤミで

「無免許で捕まらないでなぁ」

と、声をかけてくれる社員さんもいました。


夜勤はバイトの中年のおじさんと2人っきり。

途中までは店長がいます。

店の奥には生活スペースがあり、社長が閉店間際に来てレジを締めてから朝まで寝ていました。


「夜はそんなにお客が来ないから、仕事内容も簡単で楽だよ(^^)」

と、社員さん達は話していました。

サービス業なのに日曜日が定休日という珍しいスタンドでした。

譲二もスタンドの休みに合わせて日曜日は唯一の休みです。

この店は近所の小さな会社の顧客が多く、平日がかなり混むとのことでした。


夕方の時間帯はお得意さんが1日の終わりとして、営業車の洗車をしている人が多かったのです。

そういった地域でもあり、逆に一般客は少ない店だった。



夕方、制服姿で出勤する譲二を見て、お得意さんから

「おぅ、学生さん!社長出勤か!」

と、よくからかわれました。


バイト初日、店長から一日の流れと細かい業務内容を教えてもらいました。

「夜は殆どが給油のみのお客だから、元気よく挨拶して給油の種類と入れる量を聞いて、給油すればいいだけだから」

と、言うことでした。


ガソリンスタンドなので、たまに

「あれ直してくれとか専門的なことも聞かれるかもしれないけど、夜はバイトしかいないのですみません」

と、断っていいとのこと。

そして接客などの注意事項の説明がありました。

「とにかく簡単だから、まぁ気楽にやってよ。ここでテレビを見てて、お客がスタンドに入って来たら飛んで出て行ってくれればいいから(^^)」

と店長の話を聞いて、初めは

《テレビを見ていてお客を待っていればいいなんて、今までのバイトと比べたら最高!》

と、思っていました。


ところが、やっていくうちに給油する為のピストル型の給油機を使うのが簡単そうに見えて意外と難しいのです。

給油をする時、手際よく使えず何度も客の車にガソリンをかけてしまい文句を言われてしまった。

今と比べると、昔の機械はお粗末だったそうです。



譲二が働くスタンドの周りにはガソリンスタンドはなく、遠く離れた場所にあるガソリンスタンドでも殆どが6時閉店でした。

これも今思うと閉店が早いなぁと思いました。

まぁ、50年前ですからね(^^)

しかし、譲二がバイトに入ってからスタンドは徐々にお客が多くなり、混むようになってきたのです。

(何が楽だよ!)

と思った事もしばしば^_^


当時、ガソリンの種類は

ハイオクガソリンが1リットル54円。

レギュラーガソリンが44円。

軽油が35円の3種類。

入れ間違えは絶対に禁物です。

その為、譲二は最初は凄く緊張していました。


「テレビを座って見ていていい」

と言われましたが、お客が絶え間なく来る時も多くテレビどころではありません。


その時に店長がまだ残っていれば一緒に業務をしてくれます。

そして、忙しい日は閉店まで残る時もたびたびありました。

その時は決まって、

「今日は忙しかったなぁ」

と、機嫌が良く店長は

「何か好きな物、飲んでいいから(^^)」

と、今ではあまり見かけない、誰でも開けられる飲み物ケースの中から取るように言ってくれました。


それが、店長がちょうど帰った後に混んで来ると最悪です。

夜勤の2人でやるのですが、一緒に夜勤をしているおじさんも運転免許を持っていなかったのです。


譲二は自分のことは棚に上げて(^^;)

(なんで運転免許を持っていない人をスタンドが雇うんだ!おかしいだろう!)

と、身勝手なことを事あるごとに思っていました(ーー;)


でも、すごく優しい感じのいいおじさんだったので許してあげていました。

譲二にいろいろ教えてくれて、気も使ってくれましたし。


そうじゃなかったら、

『クビにした方がいいですよ!』

と、店長に言っていたかと思ってました。


温厚な譲二が何故そこまで思ったのかは、いろいろ夜勤中に大変なことがあったからでした。