ユウコは、約束の時間を1時間過ぎてもやってはこなかった。私が、まだ第一線で活躍する若手小説家だと信じている。見せ掛けだけの、フェラーリで騙した。もはや、現金をみせびらかすほど金は余っていなかった。フェラーリ。私は、過去の栄光に縋り付いて生き延びている。けれど、ユウコもついには愛想をつかしたのだろうか。怒る気力も、女を抱くだけの力もなかった。
私は、何だ。
私は、どこに存在しているのだ。
女も、編集者も、どこに行ってしまったんだ。
私は、ここにいる。
私は、ここにいるはず。
ユウコがいつも私のマンションへ来る時に、通ってくると言っていた公園に向かった。女を駅まで迎えに行こう、と考えたことなど何年ぶりだろう。そうせずにはいられなかった。足が動いていた。意志とは裏腹に。
「私を誰だと思っているんだ。女を迎えに行く?そんなことしなくても、女は次から次とやって来るわけだ。性懲りもなく。女なんてめんどくせぇ。ゆうこ?そんな女、いたなぁ。まぁ、いるのかいないのかわかんねぇような女だな。なぁ、あそこの女ちょっと連れてこい・・・」
過去のセリフが、今唐突に蘇る。
「ユウコ。頼む。会いにきてくれ。頼む。」
一時間前の電話。
やりたかった。触りたかった。触って欲しかった。ここにいることを証明して欲しかった。ユウコしかいなかった。
(つづく)