通り過ぎていった。
ボール。野球ボール。
あり得ない。
全くと言って良いほど、売れていなかった。21歳という若さで、文壇に衝撃のデビューを飾って以来、私が書く小説はいつも書店の一番目立つ所に置かれていた。自由だった。金、金、金・・・・。金で手に入らなかったものはなかった。
けれど、ペンは止まってしまった。何も書けない。一人ではマスもかけない。私のところへ来る編集者の数も減り、少しずつ扱いも横柄になった。確かなことだ。金にならない作家先生など、クリック削除である。今では、若い編集者が先輩社員に脅されて、ぺこぺこ頭を下げながら、週に一度くらいやって来るだけだ。今日の昼は、飯を食いながらの打ち合わせがあるはずだった。まぁ、はずだったにすぎない。3時間、コーヒーをすすっていただけだ。
「私、先生の作品どれも大好きなんです。」
決まって、そのセリフを言うだけの九官鳥。九官鳥に見捨てられた。おまえなんて鳥なのに。
では、私は何だ。
私は、どこに存在しているのだ。
書けない。
書けない小説家に存在意義などないのだ。
せめて、九官鳥どものように頭を下げることができたら。
(つづく)