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どうもぱーぷです
小説をいつも書いています
主に雑談&絵&小説を中心に
やらせていただいています。
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みなさんこんばんわ
p-pです
今回、何故新しい物語からいくかというと
前回のいろいろな小説データが謎の出来事により
消滅してしまったからです
なので今回から新しい物語をのせることにします



プロローグ

 僕の名前は錏神悠士(えがみ ゆうし)。高校3年生で17歳だ。誕生日は7月9日。血液型はAB型。あだ名とかはない。
 まあ、自分の自己紹介はこれくらいにしよう。
 そして彼女、枷このみ(かせ このみ)、同じく17歳で高校3年生。誕生日は知らない。血液型も知らない。あだ名も知らない。さらに僕とはほぼ無縁の人。強いて僕と彼女の接点を言うとするなら、それは同じクラスということだけだ。
 
 さて、いきなりだが僕と彼女の慣れ染めについて語ろうと思う。別に大したことじゃない。物の数分で終わるような話だ。
 僕は毎朝眠い目をこすり顔を洗い歯を磨き朝ご飯を食べて学校に行く。名は高見高校。レベルで言えば平均。人数もそれなりにいて1クラスは35人程度。いくつかの学科があり、僕はその中の普通科だ。
 何故なら将来の夢というものが具体的に浮かばないからだ。あまり趣味という趣味はないし、成績は普通だし、やりたいこともしたいこともない。無気力と言ってもいいのかもしれない。
 僕は毎日を心も情のないのうな機械のように授業を聞き、ノートを取る。まったくもって意味のないことをこなしている。こういうのを”やらされている”と言うのだろう。まさに僕の認識では、学校に”行かされて”いる。授業を”聞かされて”いる。ノートを”取らされて”いる、としか捉えていない。
 そういう自分だから常に僕は自分自身のこう問う。
 ”僕は一体何がしたいのか。僕は一体何になりたいのか。そもそも僕には欲があるのか”と。
 欲と言っても基本的な欲はある。
 だが、自分からしたいという欲がない。
 やりたいことがあるはずなのに見つけることができない。
 やることがあるはずなのにやろうとしない。
 まさに無気力。
 そう考えているうちにクラスの流れは進路に矛先を向ける。
 年が無事上がってお気楽モードだったクラスもいつのまにか進路に五月蠅くなっていた。
 当たり前だ。もう3年生なのだから。
 1年、12か月、53週、365日、8760時間、525600分、31556926秒。
 こうやって1年を見るとなんとも呆気ない。
 そう3年生にはこの呆気ない時間しか残されていないのだ。
 そりゃあ皆急いで進路を決めるわけだ。遊んでいるような時間なんてどこにもない。
 進路を決める中で、サポーターという学校がつくのは1年、12か月、53週、365日、8760時間、525600分、31556926秒しかないのだから。
 はぁ…僕も何かすることないのかな。
 すでに僕の友達は意外にも早く決めていたらしい。
 彼、居村潤一(いむら じゅんいち)は美容師の夢を持ち、美容師の専門学校を志望しているそうだ。まあ外見からして分かるように少しチャラチャラしているし、こういう仕事がお似合いなのかもしれない。
 そんなチャラチャラした男がすでに進路を決めているのに僕としたら…。
 いつも人と自分を比べては自分を攻め自虐する。そして自ら焦らす。にも関わらずまったく意欲が湧かない。ではこの1年の間何か楽しもう、と思っても楽しむ術をしらない。勿論、”やらされている”という認識が抜けないかぎり分からないだろう。
 その日もいつもと変わらない帰り道だった。
 午後の5時ごろに学校を出て帰路に着く。
 周りの家からは夕飯の用意をしてなんとも食欲をくすぐるおいしそうな臭いがする。その臭いを嗅ぎながらいつも、今日の夕飯は何だろうと、と考える。
 帰り道には同じ学校の生徒もその道を通る。
 そこでよく見るのが同じクラスの枷このみだ。ここでは呼び捨てだが、実際呼ぶ時はさん付けをしている。
 まあその枷このみだが、彼女もまた進路が決まっていないのだ。
 しかし僕とは決定的に違いがあるのだ。
 というのも、いつも彼女は休み時間になるとすぐに教室から出て行ってしまう。知り合いが言うにはいつも空き教室に出向いているらしい。そこで一体何をしているのか分からないが、何か人に見られてはいけないようなことをしているのだろう。
 それが違い。どう違うかは具体的には分からない。だが、こうしてやることがあるということは僕から見ればとても恵まれているようにしか見えない。何をしているのか分からないが僕にはそれが大きな違いだと思う。
 そんな彼女だがいつも僕は羨ましいと思う。何か自分からやることがある。それがとても羨ましい。
 と、思いながら歩いていた。
 ふと足元に目を向けるとそこにはA4サイズの紙がまるまる入るくらいの茶色の封筒が落ちていた。
 僕はそれを手にとって両面をくまなく見る。
 すると裏面の右下に名前が書いてあった。そこには枷このみと書かれていた。
 僕は瞬時に気付く。
 ああ、これは枷さんの落し物なんだ。まだ走れば届く距離にいるから渡しに行こう、と。
 僕は思った通りに枷このみ目掛けてジョギングをするように走る。少し遅いような感じはするが枷このみの歩く速度からいくと十分ゆっくり走っても追いつくと思う。
 案の定、ゆっくり走ったが十分余裕を持って追いつくことができた。
 そして僕は封筒を見せ落し物だと伝えた。
 すると枷このみの顔はものすごい勢いで青ざめた。それはもう死人同様だった。だがまたすごい勢いで顔が赤色に染まった。
「……見た?」
 たぶん中身を見たのかと僕に尋ねたのだろう。
 僕は勿論中身は見ていないことを言った。
 だが、すでに彼女の耳には届いていなかった。
 見られたと思いこみ、羞恥によって自我を保てずついには妄言を言うようになってしまった。
「嘘…きっと見たんだわ……ありえない…見られてはいけないのに…うう………どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」
 声が段々と小さくなっていくのが分かる。
 僕はもう一度中身を見ていないことを言う。だが、すでに自分の世界に入っている彼女には届かなかった。
「見たからには…責任とってもらうわ!この封筒の中身を絶対誰にも言わないこと!そしてあなたもこの作品に協力すること!!」
 え?
 彼女はそれだけを言い残して走って帰って行ってしまった。
 ああ…なんだか面倒なことに巻き込まれたな……。
 気を落としていたが、逆にこれはチャンスではないのかと考えた。つねにやることがなく、”やらされている”ことしかない僕にはいい機会ではないのかと。
 心のどこかで僕は少し高揚しているのが分かった。
 何をするのかは分からないが、彼女の持っていた封筒の中身は言わないこと(知らないのだが)と、彼女の作品(?)を手伝うこと。それをこなしていけば僕のも何らかの心境の変化が起きるだろうと思った。
 しかし僕の期待は見事に砕かれることをこの時の僕はまだ知らない。
 何故なら、彼女のその作品というのは通称BLと呼ばれる、ボーイズラブを題材にした小説を手伝ってほしいということだったからだ。


 はたして、昨日のようなことが起きてしまったがこれは自分にはプラスになるのだろうか。何かに繋がるのだろうか。
 曇天とした空の下を早足で学校に向かう。
 まず、僕は何を隠し、何を手伝うのか予想をしてみよう。
 彼女は作品と言っていた。作品というのだから芸術品ではないのだろうか。絵とか漫画とか。だが、作品と言っても括りが広すぎる。もしかしたら小説か?いや、詩?まてまて。こういうものの類じゃなかった場合のことも考えよう。ああそうだ、彼女は確か誰にも言わないこととも言っていたな。要するに誰にも知られてはいけない作品ということか。もしかして何かの計画書だったりして。それに、この前に見た漫画には殺しを快楽、死体は芸術と言っていたセリフがあったっけ。…いや、もしかしたら枷さんって……なんだか当てはまりそうなのだが。勉強も運動も目立つほど良くないし悪くもない。一人でいる時間は多いが決して友達がいないわけではない。ときどきカバーをかけた本を読んでいたりする。容姿もそこまで悪くはなく意外にモテるようだ。っと僕が知っているかぎりのことを思ってみたが全部が全部当っているわけではない。中には友達からの噂からもある。
 悩みに悩んでいたらそこはもう学校の近くの大通りに出ていた。
 このことは考えずに直接本人から教えてくれるかもしれないからその時まで待っていよう。
 そんな予感がした。


 その予感は当たったらしい。いや、的中した。
 昼休み、母親が忙しい朝の中作ってくれたお弁当を食べ終えたのを見計らったかのように僕の席の前に足を止めた。
「少し、いいかしら?」
 聞いてきた。のにも関わらず僕の腕を掴み強引にあの空き部屋えと連れて込まれた。
 空き部屋はそこまで広くはなく畳六畳ほどの小さい教室だった。外の光は高い校舎に遮られあまり入ってこず、部屋の中は薄暗い。だからなのか何故か少しの安堵感がある。確かに、人に見られたくないことをするにはここが最適なのかもしれない。
「昨日は驚いたわ。まさか私がアレを落とすようなへまをするなんて。これからもっと気をつけないと。
  さて、本題に入りましょうか。錏神悠士君。」
 枷さんの綺麗な声はだんだんと低くなり僕の名前を呼んだときにはかなりドスが聞いていた。
「あ、あのさ、僕封筒の中身見てないよ?」
 異様な恐怖により僕の声は震えた。真実だ。僕は本当に見ていない。そう、はっきりと言えばよかったのだがすでに枷さんのドスのきいた声によって委縮してしまった僕には無理な話だ。
「嘘よ!普通は中身見るわ!名前もない封筒。誰のか確かめようと中身を見たはず!はあああ…アレを人に見られるなんてなんて屈辱…。もうこれから学校生活……いえ、普通の人生は過ごせないわ。みんな変な目で私を見るに違いない……。全部あなたのせいなんだからね!」
 意味分かんなし。ていうかこの人は封筒に自分の名前を書いたことを忘れていたの?それなら勘違いをしてもいいところだが、今の枷さんの状況を見るに、今にでも自殺してしまいそうな勢いだ。
 ここははっきり言ってしまおう。
「だから僕は―――」
「大体ねぇ、人の落とした封筒の中身って普通見る?見ないわよね?もしそれが大事なもので誰にも知られてはいけないものだったらどうするのよ。まあ私のもそうだったんだけど。ありえないわ。あなたって常識に欠けているのね。いつも平均的で何でもこなすような人で意外に友達も多い良い人って思っていたけれど――――見そこなったわ」
 7割意味不明なこと言われて3割へーそうなんだーと言うことを言われたのだがどうしよう。僕の決意も言い砕かれちゃったし。
「何か言いたいことはない?」
 声色がもう怒りの色に塗られている。枷さんって静かに口で怒るタイプのようだ。
 なんてことはどうでもいい。これは僕の意見を枷さんが聞いてくれるチャンスだ。このチャンスを見逃してはいけない。
 今度は、はっきりと簡潔に分かりやすく言うぞ。
「僕は中身なんて見ていない。それに封筒には名前が書いてあった。だから封筒の中身を見て確認する必要もない。結果、僕は封筒の中身を見ていない」
 あはははと愉快に笑いながら枷さんは封筒の外面を確認する。たぶんまだ僕が嘘をついていると思っているのだろう。
 枷さんは笑顔で表裏と目を進めていくが、そう。そこに裏面こそに名前があるのだ!
「やっぱり嘘ついて―――」
 ふ。見つけたか。
 電池切れのロボットかのようにピクリとも動かない。
 待つこと10秒。枷さんの表情は昨日と同じように青ざめていく。だかすぐに赤くなった。
「嘘よ!そんなのありえないわ!きっと私に渡す前に名前を付け足したのよ!」
 何故そうなる!?自分を正当化しようとしてもそれは無理がある!
「それには無理が」
「できるわ!昨日、私とあなたの距離は十分に離れていたはず!だから渡しに渡すまでにかなり時間があったはず!その時間の間に名前を書いたのだわ!!」
 もう何を言っているのか分からない。かなり錯乱していらっしゃる様子だ。
「いやだから―――」
「じゃあ――」
 枷さんは乱暴に封筒を開き中身を手にし僕にそれを見せつけた。
「あなんたは本当にこれを見てないって言えるわけ!?」
「え」
 僕は彼女のおかした間違いに早く気付いた。
 僕は確かに中身を見ていない。それはもうさっき実証済みのはずだ。封筒を渡す時に外面に書いてあった名前を見て渡した。そして彼女はそれを確かなものか確かめた。そこで疑いは晴れるはずだった。
 だが、自分がしたことに恥じいたのか彼女は錯乱してしまった。何の疑いもないクラスの男子を疑い挙句は利用しようとまで考えていたのだが、そうする意味なんてなかった。やってしまった、一人で興奮して暴れてしまった。恥ずかしいところを見られてしまった。彼女の気を壊滅させるには十分だった。結果、彼女は思いもよらない行動を自ら起こしてしまい盛大な墓穴を掘ってしまったのだ。
 枷さんがそれに気付くまで意外に遅くはなかった。
 まず最初に目を見開いた。次に顔が段々と歪んできた。最後に大粒の涙が頬を流れた。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああん」
 うぐっ…。ものすごく響く泣き声だ。
「ちょっと、落ちついて!!」
 と、何度言っても泣きやまない。
 もう……もう!最後の切り札だ。
「僕はそのことについて誰にも言わない!そして僕はそれを手伝う!だから泣きやんでくれえええええええ!!」
 渾身の叫びだった。
 そう言った途端、枷さんは泣きやんだ。
 ふう…よかった。
 手伝うって言っても見せつけられた紙からして漫画か何かなのだろう。一体何を手伝えばいいのか分からないがこうなってしまったのだ。全力を尽くそう。
「本当?誰にも言わない?手伝ってくれる?」
 枷さんの泣きやんだ顔に声に、少しドキっとしてしまったが本当に僕は協力することを伝えた。
「じゃ、じゃあ私が描いたの見て……」
 その紙には絵が描かれていた。まだラフスケッチで大まかな形しか描かれていないが十分に内容が分かる。
 えっと、題名…「俺と僕(しもべ)」?変な題名だ。ふむふむ。主人公は立御和か。なんだかスポーツマンってかんじがするな。で一人称を俺か。あーじゃあこの人が題名に出ている俺の人なのかな。じゃあそのしもべは…ふむふむ…あ、この気弱そうな人か。名前は小河麗。見るからにひ弱いのが分かる。って重要人物はこの二人だけなのか。ふんふん………。
 黙々と目を進めていく。
 ストーリの流れで、しもべの人が雨が降っている中歩いている。立御和はそれを追いかけている。そして立御和は言った。
「お前の事が好きだぁ?………え?」
 それに対して小河麗はこう言う。
 『僕はもうこの御屋敷の執事は辞めたんです…。もうあなたとは会えません。』
 『ふふ…ふははははははは!この御屋敷の執事は辞めたか!それはよかった!じゃあ俺の執事になれ!お前はもうフリーなんだろう?』
 『!? い、いいのですか!?』
 『ああ!当たり前だ!』
 『うう…ありがとうございます!一生あなたの元で働きます!そして……僕も…好きで―――
「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「な、何よ!?」
 ちょ、ちょっと待て!これって男同士だよな!?だよな!?え?じゃあなんで男が男に好きって告白してるの!?ええええ!?
「手伝ってくれるんだよね。やたー」
 満面の笑顔で喜んでいる枷さんだが、僕には喜べる要素が何一つなかった。
 自分でもわかる。たぶん、今の僕の顔を鏡に写すと絶望に満ちている表情だということを。
第3章『始動』

「ふー」
 僕は深くため息をつく。
「お疲れの様子ですね」
 何故か僕の家に住んでいる謎の美しいお姉さんが気遣ってくれる。
「傀儡さん…。そうですね。人間の心というのはとても面倒です。心理がいつも僕の邪魔をする」
 彼女と話していると、なんだか自分はハッカーにでもなった気分になる。
 彼女の思考や心理をハッキングして、たぶん辿りついた先には恋人となっているのだろう。
「あなたがいくら逃げたいと思っても逃げれませんよ?」
「大丈夫です。最初は辛かったけど、この仕事は僕にぴったりの仕事だ。なんたって、あいつを一番知っているのは親以外に僕しかいない。これが仕事なら天職ってやつかな。はははは」
 それに僕は叶のことが好きだ…。叶と話せるのなら頑張るしかない。
「そう。笑っているのはいいですけど、どうなんですか?その呂該剱という男は」
「あー呂該剱君ね。彼は…なんていうか最高だ。どこかの御曹司らしい。金はあるし勉強はできるし運動はできるし…まさにライトノベルとかいう小説に出てくる天才のような男さ。僕の知っている範囲ではね。僕の知っている以外でもいろいろ調べたよ。結果はそのまんま、彼は最高の男。他には姉がいるらしい。しかも社長だって。それとさ、彼は成人になるまではすべて一人でやっているらしい」
 そりゃあ坂江叶もそいつに恋するのは分かる。いままでそいつと競ってた僕が悲しくなるくらいに呂該剱は完ぺきだ。
「はぁ…呂該剱君を調べていて一番決定的だったのがさ……好きな女性は坂江叶だそうだ」
 ため息しかでてこない。
「だけどさ、困ったことにこの2人には接点というものがほとんどないみたいなんだ」
 この情報を聴いた時、僕はこの仕事の意図を分かった気がした。
「僕はこの2人の仲介者ってことさ。これがこの仕事の目的だと僕は思っている」
「なるほど。あなたは2人の仲介をするということですね」
「そういうこと」
 しかし、簡単に仲介すると言ってもそうやすやすとできることではないと思う。
 だからまず最初にやることは呂該剱のお友達になることだ。
 でも一体どうすればいいのかな。
 相手が女の子だったらやりやすいんだけどなー…。
「あーそうだ。僕って転校生なんだ」
 転校生っていうのを利用すればいいね。


 有言実行だ。
 僕は今まさに学校の呂該君が近くにいるであろう廊下にいる。
 さて、どう声をかけようか。
 僕の考えている中の1つは『あ、すいません。図書室ってどこですかー?』てきな、道を尋ねてそこから交流戦法。
いや、それとも『角でぶつかってお知り合い』戦法。……ってこれは女子向けのプランだな。男にすることではない。何を考えているんだ僕は。
「ん~…」
 こういうのって実際やりにくいよなー…。ここまできて思うようなことじゃないけど。く~…。
「どうかしたのか?」
「今考え事を―――ってわああ!?」
 し、しまった!!
 僕に声をかけたのはなんと呂亥剣君本人だった。
 僕から声をかける予定だったのに逆に声をかけられてしまった!声をかけられるなんて考えていなかった。
「ご、ごめん。今考え事をしていたんだ」
 ん?
「重そうな本だね」
 呂亥君は数10冊くらいのとても重そうな本を持っていた。
「ああ、なんか先生が運べって」
 きた!チャンスだ!これで交流が生まれる!
「半分持つよ」
 僕は半ば強引に本を取った。
「どこに持って行けばいい?」
「え、ああ、小箱箱にって分から――」
「了解!」
 小箱箱というのは、八重小学校の第二倉庫のことである。
 あ、ついでに僕が今通っている高校は八重高校といって、小中高連結校である。
 僕は早歩きで八重小学校第2倉庫に向かった。
 高校から小学校までは一本道なのだが大変なのが道中に小さな丘がある。
 小さい頃はその丘で遊んだものだ…。肝試ししたり隠れんぼしたり……。
「はぁ…」
 ちょうど丘の入口まで来た時に木陰から傀儡さんが姿を現した。
「あ、傀儡さん。どうしたんですか?」
「どうした、ですか。そうですね。指摘する箇所があったので」
「はぁ。なんですか?僕は別に悪いことなんてしていませんよね?」
 だってこの状態での知り合いなんて坂江叶と呂亥剣としか会話したことないし。それに家にだってすぐ帰っちゃうし。
「さっき呂亥剣とコンタクトを取りましたよね。その時に『小箱箱』と言いましたよね」
「うん、言っていましたね」
「その『小箱箱』について教えてくれませんか?」
「いいですよ。『小箱箱』っていうのはですね、八重小学校の第2倉庫のことです。僕が小学4年生の時に付けられた略称です。最近はどう言われているのかな。その『小箱箱』っていうのは僕らの年代くらいでしか流行っていないような…。まあそんなところです」
「そうですか。では指摘します。『小箱箱』というのは、あなたは知らないのではないのですか?」
 …………あ。
 え、あ、そうか!『小箱箱』を知っているのは八重小学校を通っていた人だけで、僕は転校生だから知らないんだ!
「ど、どうしましょう!?」
「はぁ…なんであなたには前の記憶があるんでしょうね。とにかく、言い訳を考えておいてください」
 前の記憶があるのは坂江叶の恋愛を成就させるために必要であって、ああああ!どうしよう!
 言い訳言い訳言い訳!んー!はっ!そうだ!実は僕は霜上佑樹で――ってそれ言っちゃだめだろおおおおおう!じゃ、じゃあ、実は友達から教えてもらったんだ!そうだ!これがいい!っていうかこれしかない!よし、言い訳考えた!
「ちょっと、聞いてますか?」
「え!?なにをかな!?」
 傀儡さん僕に話かけていたんだ。気づかなかった。
「早く行かないといけないのでは?時間大丈夫なのですか?」
「嘘? うわあああ!? もう授業始まっているよ!」
 待て。待て待て。今度は冷静に考えろ。これもまたチャンスだ。
 そ、そうだ。授業が遅れたのは小学校の第2倉庫の場所がわからなかったから、ですべてに辻褄が合う!
 呂亥君のも、授業が遅れたのも!
「ふふ…大丈夫ですよ傀儡さん。呂亥君のことも。授業のこともすべて辻褄が合います!大丈夫です!」
「はぁ…心配ですねー」
 傀儡さんは僕に見えないところで黒い本をパタンと閉じた。
 ふぅ…我々の力を使わずに解決できてよかったわ。
 それより、なんで上の人は天之幽に霜上佑樹の記憶の入れたのでしょう。一人の恋愛を成就させるくらいならだれでもいいはず。それに、上の人は確か、霜上佑樹の記憶があった方が坂江叶の恋愛を成就しやすい。と言っていました。でも我々の力をもってすれば記憶の植え付けくらい簡単なのに…。
 このお仕事には、坂江叶と呂亥剣の恋愛を成就させる以外に何か目的があるようですね。
 とは言え、私は知りたくもありませんがね。
 『坂江叶の恋愛を成就させる』。それが私の、彼と私の仕事。
「だ、だ、大丈夫だ!問題ない!」
 ………。この先大丈夫かしら。