『彩人君、ちょっといい?』

『あれ?愛梨ちゃん?どうしたの?何か嬉しいなぁ、愛梨ちゃんの方から俺に話しかけてくれるなんて。』

『うん、あのね、彩人君にお願いしたいことがあって。』

『え?いいよ、何?どうしたの?』

『うん、明日か明後日の土日、昼間ね、どこかで時間空いてない?1時間か、30分くらいでもいいんだけどな。私、彩人君の家まで行くから。』

『え~!ウチに?ウチに来るの?えっと、まぁ空いてなくはないけど…。どうしたの?何か勉強のこと?』

『あのね、私とエッチしてほしいの。』

『!えぇ~?ちょっと待って、ちょっと待って、愛梨ちゃん…、何言ってるの?からかってるの?ちょっと待って…、何?なんで?』

『前に彩人君、私のこと好きって言ってくれたから。まだ好き?』

『待った!ちょっと待って、ちょっと待ってって、愛梨ちゃん…、マジで、本気で言ってるの?ちょっと待って…。』

『お家の人がいないタイミングってある?』

『ちょっと…、ちょっと待って愛梨ちゃん…、ちょっと待って。どういうこと?どういうことなの?ちゃんと説明して。』

『あ~、面倒臭いなぁ…。突然じゃ無理か、ゴメンね、他を当たるよ。』

『待った!ちょっと待って!ちょっと、ちょっと待ってって!』

 

 日曜の午前中、愛梨は彩人の家に行くことになった。その日、彩人の家族は、弟の部活の大会の応援で、朝から両親とも出掛け、夕方まで帰ってこない予定だった。彩人は1人で留守番だ。時々、こういうことはあったのだが…。

彩人は考える。愛梨は一体どういうつもりなのか。エッチするつもりなんでしょ?いや、そりゃぁそうなんだけど、なんで?なんで俺と?愛梨ちゃんは俺のこと好きになってくれたのか?いや…、悲しいけど、多分それは違うだろう。『出来ないんだったら他を当たる』という愛梨の言葉。どういうこと?そんなの嫌だ。愛梨ちゃんが誰か他の男とそんなことするなんて。だったら俺が…。でも、そんなことしていいの?なんで?どういうこと?

 健康な高校1年生男子の彩人。女子と、しかも飛び切りの美少女の同級生と、そんなこと、したいと思わないわけがない。そりゃしたいに決まっている。でも…。彩人は逡巡する。なんで?なんで?そんなことしていいの?大好きな愛梨ちゃん、彩人にとって、愛梨はただの性欲の対象ではない。彩人は、愛梨を自分の自慰行為のオカズにしたことは1度もない。恋愛感情、それは性欲よりも精神的な愛おしさの方が勝っている感情だ。いつも暗い顔でしかめ面ばかりしている愛梨、いつも下ばかり向いている愛梨、ニコリともしない愛梨、それでも惹かれてしまう。ずっと愛梨のことが頭から離れない。家の貧困や虐待の噂。どれもホントかどうかはわからない、誰も本当のことは知らない。ただ、とにかく愛梨は、どこにでもいる普通の女子高校生ではない。そんな愛梨に、彩人は心を奪われてしまっている。愛梨のことをもっと知りたい。話したい。力になりたい。そんな愛梨と、性的関係を持つ?いきなり?自分が?まさか…、そんなことが本当に?

 彩人は中学の頃、初めて彼女が出来た。向こうから告られて、それなりに可愛い子で、まぁ悪い子じゃなかったし、あまり深く考えずにOKした。中学生、男女ともに、恋に恋するお年頃だ。男女交際というものを、とにかくしてみたかった。ただ中学生のこと、お互いがお互いを求め合い、支え合い、大切に思う、そんな本当の恋愛からは程遠い関係だった。毎日の他愛のないLineのやり取り。お互いの想いや悩み、真剣に自分の心の奥を吐露する、そんな関係には全くならなかった。一緒にお祭りに出掛け、花火を眺め、手を繋いで歩いた。帰り際、神社の暗がりで、初めてキスをした。それ以降も、デートをすれば、軽くハグをしてキスをする程度は繰り返したが、それ以上の進展はなかった。そして、別々の高校に進学することになり、自然消滅した。その子のことは、付き合って、それなりに好きになってはいたが、恋焦がれ、ずっと頭から離れない程だったかと言われれば、それは…、正直そこまでではなかった気がする。今の愛梨への想いの方が、ずっと強く深い。自分にとって、本当の意味での初恋の相手は愛梨だ。彩人はそう思っていた。出来れば、段階を踏みたかった。自分の想いを愛梨が受け容れてくれ、たくさん喋って、お互いを知り、お互いを思いやる関係を築き、それから少しずつ…。彩人にとって愛梨は、大事な、愛しい、大切な女の子だった。それなのに…、こんな一足飛びに…。

 これが、恋愛感情の全くない、ただやりたいだけの女子、そそるだけの女子、だとしたら、マジ?ラッキー!手放しで大喜び、嬉々として誘いに乗り、エロモード全開で、性欲に身を任せ楽しむことが出来るのかもしれない。でも愛梨は…、彩人にとってそういう存在ではない。そんなことしていいの?しかも、いきなり…?そして何より、何か事情があるんでしょ?でもその事情を、俺には一切話してくれない。男として、と言うか、愛梨ちゃんは俺を彼氏として見て、頼ってきたわけじゃないんだ、悲しい…、自分の好きな女の子が、自ら身を任せてくれる、それでも彩人は、辛く切ない想いを味わっていた。そんなことしていいの?堂々巡りだ。でも、だからといって。愛梨ちゃんが他の男と…。そんなのは絶対に嫌だ。よくわからないけど、とにかく、愛梨ちゃんの望みを叶えてあげたい。愛梨ちゃんの役に立ちたい。勿論、自分が愛梨としたい気持ちは一切ないとは言い切れないけれど…。

 

 彩人は、自室のカーペットに丁寧に掃除機をかけ、散らかったものを片付け、愛梨を招き入れる準備をする。ベッドのシーツと枕カバーを替え、消臭剤をたっぷりふりかけた。自身も入浴して入念に身体を洗った。臭いと思われたら嫌われる。本当に、本当に、今から愛梨がここへ来るのか…、そして…。嘘でしょ?ドギマギしながら愛梨を近くまで迎えにいく。学校で制服姿しか見たことがなかった彩人は、愛梨の私服姿を見るのは初めてだ。

 デート?精一杯のおめかしに勝負服、少しでも自分を可愛く見てもらいたいという女心。しかも今日は、初めて彼と結ばれる約束…。緊張、そして覚悟。でも嬉しくて、でも恥ずかしくて…、はにかんで照れてしまう…。いや、生憎、愛梨はそんな普通の女子高校生のような精神構造を持ち合わせていない。そもそも彩人は愛梨の彼氏ではない。彩人は愛梨のことが好きなのだが、愛梨の方は…。愛梨にとって彩人は、自分の目的達成の為の協力者、言ってしまえば道具に過ぎない。恋心など微塵もない。それは彩人でなくても誰でもいいのだ。愛梨を、いっとき受け容れてくれる相手なら…。

 地味な服装、お古のジーパンによれよれのTシャツ、薄手のパーカー、完全に普段着で、当然ノーメイクのすっぴん。ポーチやバッグも持たずに手ぶらで、髪もボサボサのままだ。丁寧に梳かすことさえしていない。やる気のなさが恰好にも態度にも表れている。でも彩人は、これから起きることに、ワクワクドキドキ?いや嬉しいというより、緊張の方が遥かに勝っていた。切ない気持ちも同時に抱えながら…。自分が今から女の子とそういう関係になるなんて、しかもその相手が愛梨だなんて…。現実感がなく、どうしたらいいかわからず、オドオドしてしまう。愛想笑いと照れ笑い、自分でも恥ずかしくなるくらい、愛梨のご機嫌を取ろうと、不自然に笑顔を作っておどけて見せる。愛梨は?いつものように無表情、いや、いつものように憂鬱そうなしかめ面。ニコリともしない。これから男の子と…、そんな甘い関係になるとはとても思えない雰囲気だ。何を考えているのかわからない顔。愛梨の方も緊張しているのか?ちょっとくらい微笑んであげてもよさそうなものなのに…。何も、全く口も開かず無言のままだった。

 彩人は緊張して愛梨を自分の部屋に招き入れた。とにかく、座布団を勧め、ローテーブルの傍に、取り敢えず座らせた。

『え~と、ジュースがいい?それともコーヒー?紅茶?』

飲み物を運んでこようと、精一杯の優しさと気遣いを見せる彩人だったが、

『あ、そういうのいいから。』

愛梨は、ジーパンのお尻のポケットからコンドームを取り出すと、テーブルの上にペタンと置いた。ムードもへったくれもない。

『一応、持ってきた。彩人君も持ってた?』

『え?』

どうしたらいいかわからない彩人。馬鹿みたいに泳ぐ目。

『このベッドでするの?』

『え?う…ん…。』

『そう、じゃ、しよっか。』

愛梨は立ち上がると、無造作にパーカーを脱ぎ始めた。びっくりして、思わず目をそらしてしまう彩人。どこを見ればいいかわからない。そんな彩人にお構いなく、真昼間の明るい部屋の中、同級生男子の目の前で、あたかも、これから入浴するという毎日のルーティーンのように、本当に無造作に、何の躊躇も羞恥も見せず、Tシャツを脱ぎ、キャミも脱いでいく高1女子の愛梨。上半身、ブラ姿になった愛梨の白い肌と、胸の膨らみ。ほんのりと、女の子の素肌の香りが鼻孔をつき、彩人は、かぁ~っと頭に血が上ってしまう。彩人の方が恥ずかしくて顔を上げられない。愛梨は自分の脱いだものをきれいに畳んで傍らに置いていく。下のジーンズも脱ぎ始め、ブラとショーツ姿になったところで、彩人は堪えきれず、止めに入る。

『待って!愛梨ちゃん!待って!ちょっと待ってって!お願い!』

目の前で、同級生女子が服を脱いでいく。学校の階段で、スカートの中が危うく見えそうになってしまう、そんなシーンでさえドキドキしてしまう男子高校生なのに…。ブラジャーとパンティ姿で目の前にいる愛梨…。

『あ、もしかして、彩人君が脱がせたかった?ゴメンね、私そういうの好きじゃないんだ。』

愛梨はさっさとブラを外し、白い乳房が露わになる。そして彩人の目を気にすることもなく、恥じらって隠しながらでもなく、彩人の存在など、まるでないかのうように、靴下も脱ぎ、無造作にショーツも脱ぎ捨て全裸になった。目の前で下を向いてしまっている彩人に、愛梨は声をかける。抑揚のない声で。

『どうしたの?見てもいいよ?』

『え?えぇ?』

愛梨の胸の膨らみを、白い太腿を、そして秘密の茂みも。見たくて見たくてどうしようもないはずなのに、彩人は顔を上げられない。夢にまで見た女子の裸身。ドキドキしながら少しずつ愛おしみながら、そしてついに、ではなく、何の段取りも心の準備もないまま、いきなり目の前に差し出された同級生女子の裸身…。彩人はどうしたらいいかわからない。そんな彩人をまるで無視するかのように、愛梨はどんどん彩人のベッドにもぐりこみ、彩人のために、身体を移動させると、横にスペースを空けた。

『彩人君も全部脱いじゃってよ。来て。』

『うん…。』

彩人は、慌てて服を脱ぎ捨て全裸になり、愛梨の横に滑り込む。自分の大切な部分を、初めて女子に見られる恥ずかしさ、そんなものを感じている余裕は、彩人にはない。

『愛梨ちゃん!愛梨ちゃん!』

彩人は愛梨の横に身を横たえ、優しく触れようとしたのだが、夢中で愛梨を抱き締めてしまう、身を寄せる…、密着する素肌と素肌。その、柔らかい肌の温もりに彩人は感動していた。温かい…。愛梨の髪を撫で、おでこに唇を寄せて身体をまさぐる。初めて触れる女の子の胸の膨らみ。彩人の手が愛梨の頬に優しく触れると、愛梨は思わず両手で顔を覆った。さすがに恥ずかしいのか。いや、愛梨がそうしたのは、殴られると思ったからだ。反射的に手で顔を覆ってしまった。でもそんな抵抗は、男の劣情の炎に油を注ぐようなものだ。抵抗してはいけない…。大人しく、身を任せる…。

 彩人の目には、愛梨はどう映っていたのか。愛梨の身体や表情、反応など、細かい部分を冷静に観察するような余裕は彩人にはなかったが、それでも、愛梨はセックスの経験がある程度あり、緊張もせず落ち着き、シラッとしているように見えていた。しかしその実、愛梨は、必死に闘っていた。身の毛もよだつ嫌悪感。全身に鳥肌が立ち、顔から血の気が引いていく、意識が遠のく、耳の奥がキーンとしてくる、頭の中でワンワンと何かが鳴り始めてしまう…。気を抜くと、必死に意識を保っていないと、吐いてしまいそうだ。だから今日は朝から何も食べずにここへ来た。逃げだしたい、止めてほしい。いや、でもやり遂げたい…。五感を遮断するんだ、痛みも不快感も悲しみも…いつものように…。

 愛梨は小さな呻き声を漏らすが、それが性的に感じているのか、恥ずかしくて声を上げてしまっているのか、それとも不快感に耐えているのか、そんなことを判断する余裕は彩人にはない。唇にキスしようとすると、愛梨は軽くイヤイヤをしながら、でも受け容れてくれた。左手で腕枕をした状態のまま、頬に、首筋に唇を寄せ、右手を下半身に滑らせる。お腹から太腿へ。彩人の手が、秘密の場所に近付くと、愛梨は一瞬身体をギュッと硬直させた。でもすぐに力を抜いて、足を少し開いてくれた。彩人の指が、愛梨の茂みに分け入っていく。柔らかい…、こんなに、こんなに柔らかいのか…。しばらく、愛撫を続けていた彩人だったが…、

『彩人君、もう、して。』

『え?うん、わかった。うん、あれ?ちょっと待って…、あれ?』

女子の身体に初めて触れ、彩人の性的興奮は最高潮のはずだったのだが…。

「あれ?おかしいなぁ、どうしちゃったんだろう、こんな…。」

健康な高1男子。普段、学校でも家でも、テレビやスマホを見ていても、女子のちょっとした刺激ですぐに反応してしまう彩人のそれは、なぜかうなだれたままだ。彩人は自分のそんな事態に焦り、こんな…、なんで?信じられない…、裸の愛梨と肌のふれあいをしているというのに…。

『どうしたの?勃起しないの?』

『え?え~、俺、どうしちゃたんだろう、なんで?おかしいなぁ…。』

『初めてだから緊張してるんだよ。』

愛梨は身体を起こし、彩人を仰向けに寝かせると、自分の半身を彩人に預け、肩を、胸を、お腹を…、左手で優しく愛撫し、指を滑らせる。彩人の頬に、胸に、優しくキスをしてあげた。そして、彩人のうなだれたままの物に、そっと触れてみる。フェザータッチ、触れているのか触れていないのか、微妙な感覚で…。最初から強くしないのがコツ。愛梨は、鹿のような瞳で下から彩人を見つめると、優しく、ニコッと微笑んだ。その瞬間、彩人のそれはビクンと反応した。可愛い…、笑うとこんなに可愛いのか…、いつも仏頂面の愛梨なのに…。彩人は、愛梨のこんな笑顔を見たのは初めてだった。しかし…、私、上手く笑えた?継父に、可愛く優しく、甘えるように微笑むよう強要され、うまく出来ないと殴られて、泣きながら何度もやらされた作業、上手に出来たかな…。愛梨の手の中で、魔法のようにムクムクと成長する彩人のそれ。

愛梨は、横たわる彩人の身体を一旦乗り越え、テーブルの上のコンドームに手を伸ばすと、屹立した彩人の物に装着してあげた。彩人君、どう思ったかな、手慣れているって思われたかな、まぁ、別にどう思われようとどうでもいいけど…、何なら口で付けてあげることも出来るよ。中学の頃から、将来のための練習だからと、訳のわからない理由をつけて、これも、継父に何度もやらされてきた作業…。継父にとっては遊び…。

『愛梨ちゃん!』

彩人は夢中で愛梨に覆いかぶさる。

『あ、ちょっと待って。』

愛梨は自分の手で自分の性器を刺激する。もう少し潤いを与えたかったから。痛みの軽減。充分に濡れる前に乱暴にされると、飛び上がるほどの激痛が走る。何度も経験済みだ。継父に、何度も指を挿れられたことはある。変に抵抗することをせず力を抜く、なるべく別のことを考える、いや、痛みも不快感も悲しみも無視して心を無にする。性器には充分に潤いを与える。誰に教わったわけでもない、愛梨なりの対処法。自分の身を守る為の防衛本能のなせる業だ。

『いいよ、して。』

愛梨は、静かにその時を待った。覚悟は出来ている。さっきより、少し落ち着いている…。まだ、耳の奥では何かが鳴っているけれど…。ついに、彩人の物が、愛梨に侵入する。愛梨は目を閉じ、破瓜の痛みに耐えた。出来た…、ありがとう、彩人君…。

 

『彩人くん、彩人くん…て、殴らないんだね…、ありがとう…。』

『え?』