高校時代、友達と遊んだ記憶は皆無です。ただ、周りが悪いんじゃなくて私が悪い…。周りに壁を作って、他人を遠ざけていたのは私の方です。こんな私でも、明るく声を掛けてくれる、女の子も男の子もいましたけど、私、誰とも仲良くなりたくなかった、誰とも親しくなりたくなかったんです。誰にも、私自身のことや家のことも知られたくなかった。だから…、教室で、隠れるように学校生活を送っていました。自分の存在を消すように…。ずっと、暗い顔をしてしかめ面で、不機嫌そうな顔で下を向いて、話しかけんなオーラ全開で…、孤立していました。当たり前ですよね、そんなんじゃ…。でもその方が、気が楽でしたから、それはいいんです。中学の頃もずっとそうでしたから。そんなことは…、そんなことはどうでもいいんです。」

愛梨は、切なそうに、苦しそうに顔をしかめながらミルクティーを啜る。

 

「でね、店長、あの…、ホントはあんまり言いたくないんですけど…、いえ、あの、ホントは逆に聞いてほしい気持ちもあって、店長さんだから、こんな話出来るんですけど…。やっぱり聞いてほしい…、話したいんです。」

「うん…?」

愛梨は、そこで一旦言い淀んだ。信治は急かさない。優しく愛梨の言葉を待つ。

「下着が、よくなくなっていたんですよ。中1くらいから。ただ、あれ?ない、なんで?なんて思ってると、次の日には普通にあったりして。だから、下着泥棒とかじゃないんですよね。あ、余計な話ですけど、私、ずっと、母にブラ、ブラジャーを買ってもらえなかったんですよ。貧困家庭や虐待家庭で、よくある現象なんだそうです。中学まで、子供用の胸当てというか、申し訳程度にカップというか、膨らみが付いているようなインナーを着ていました。ちゃんとした…、ちゃんとしたって言ってもホントに機能重視で可愛くも何ともないブラですけど、あとスポブラ、体育の時に着けるやつです。高校に入ってバイトするようになって、やっと…。でも自分でバイトしたお金でも勝手に買い物すると母が怒るので、これ買っていい?て、初めて買いました、普通のまともなブラ。毒母っていうんですかね、自分の娘が女になっていくのが許せないんだそうです。若いオンナに嫉妬する…。私が自分のお金でも、ちょっとお洒落な可愛いブラでも買おうものなら、引き裂かれて捨てられたと思います、多分。

 で、その下着がなくなっていた話ですけど…。まぁ犯人は継父だったんですけどね。その当時、私のバイトと母のスーパーのパートと、継父の謎の収入、継父は、母と弟と私、3人がそれぞれ学校や仕事に出掛けた後、昼間1人で、家でゴロゴロしている日も多かったんです。で、継父が私の下着を悪戯しているんじゃないかって、母に訴えたら、それくらい我慢しなさい、誰のおかげでそんなに大きくなったの!て逆に切れられて怒鳴られました。それで、その後、その…、中2の時に…、あの…、その…、」

愛梨は再び言い淀み、下を向く…。でも意を決したように顔を上げると

「継父に悪戯されたんです。最後までは、その、ホントの性行為までは絶対にしないという約束で、母も了承済みでした…。最初は服の上から…、それが…。」

愛梨は、ギュッと目を閉じ、両こぶしを固く握る。今度は明らかに震えている。

「愛梨ちゃん?大丈夫?嫌だったら話さなくてもいいんだよ?」

思わず声をかける信治。大きく首を横に振る愛梨。

「ごめんなさい。こんな話、聞きたくないですよね?すいません…。」

「そうじゃなくて、そんな、悪戯の具体的な内容まで、話す必要ないよ?」

「…はい、そうですね…。そうなんですけど…。でも店長、ちょっとだけ…、話したい、話したいんです…。」

「うん、わかった。無理しない範囲でね、愛梨ちゃん、ゆっくり。途中で止めてもいいからね、少しだけで…。」

「はい、ありがとうございます…。それで、その…、徐々に…、下着の中にも手を突っ込まれるようになって…、胸やあそこや、直接触られて、いっぱい舐められて、無理矢理キスもされて…。首筋や脇の下も何度も舐められて…。

私、当時中2で、同級生の中には、もう彼氏とキスしたなんて子もちらほら出てきてて…、身体はだいぶ大人なんでしょうけど、私、精神的には全然子供で、男の子なんて、彼氏なんて、そんな…、恋愛なんて全く経験なくて…。そんな余裕なかったっていうか…、男の子とデートなんて…、そんなこと考えられなかった。誰か特定の気になる男の子さえ1度も出来たことなくて、化粧品や洋服や、前髪を気にするような、普通の女子中高生の感覚も全くなくて、性に関する知識もほぼゼロの状態で、何が何だかわからなくて…。

 何年も続いたんです。3日・4日、続けてのこともありましたし、数ヵ月、タイミングがなくて空いて、でもまた…。何度も何度も…。中3になっても、高校生になっても…、ずっと続きました。下着姿にされて、立たされて…、継父が背中のブラの線をなぞっていくんです。指で…口で…、甘噛みしたり、噛んで引っ張ったり、舌を這わせたり。ストラップとかカップのとことか、ゆっくり、ねちねちと…。下も、ショーツの線に沿って…、前も後も舌を這わされて。ふくらはぎや太腿や、お尻も…、あそこも…。私、動けなくて…、必死に『やめて』て言うんですけど、声にならなくて…。あの…、あの…、殴られるんです、顔やお腹を…、思いっきり…、息が出来なくなるくらい…、苦しくて、恐くて…、抵抗できなかった…。1秒でも早く、この時間が終わればいいって…、なすがままにされていました…。継父、私の足を…、高校指定の、紺のソックスを履いた足を、足の裏とか、つま先の部分とか、匂いを嗅ぎまくるんです…、なんでそんなところを…、汗ばんだ足の匂いを、靴下の匂いを…、嗅がれて、頬ずりされて…。私、気持ち悪くて、恥ずかしくて恥ずかしくて…。靴下を脱がすと、継父…、私の足を、足の裏を舐めまくって、指まで1本1本しゃぶっていくんです…。自分が何をされているのか全くわかりませんでした。大人はみんな性行為の時に、そういうことをするものなのか、それとも、継父だけがおかしいのか、全然わかりませんでした。

 別の時には、制服を着たままの私を立たせて、継父、全裸になって仰向けになって…、その…、その…、私に…、踏めって言うんです…。ソックスを履いたままの足で、お腹や…、顔を…、顔を踏まされて…、匂いを嗅がれて…、舐められて…、なんで?なんでこんなことさせるの?って、本当に意味が分かりませんでした。足で、足で顔を踏まれて嬉しいの?って…、そして、股間を…、股間の、継父の…、あの…、あれも…、踏めって…。継父、私にあれを踏まれて…、あの、その…、出してました。継父のあそこから…、何かが出ていました。私、びっくりして…、わからない!何がなんだか、何が起きているのか、全然わからなかったんです。私、それが精液だって最初はわかりませんでした。しばらく経ってから、学校の保険体育の授業で習った、あれがそうかって思い当たって…。益々気持ち悪くなって吐きそうになりました。1回では済まないこともあって…。

 口でしろって言われたんですけど、もちろん最初は意味もわからなくて。無理矢理、口の中にあれを入れられそうになって、びっくりして…。それはどうしても無理で、泣きながら拒否したら、継父は、私の手や足やお尻や、身体中舐めまわして唾でベタベタにして、自分の物をこすりつけて果てていました…。私、とにかく家で継父と2人だけになることを、何とか避けようとしてたんですけど、それでも…。」

愛梨は涙目になって信治を見つめ、震えている。そして、目を逸らして俯く。衝撃の告白…。まさかそんな、そんなことが…、本当にあったのか?愛梨がそんな目に…、そんな体験をしているなんて…。信じられない…。性的虐待?何かのニュースで読んだ記憶はあるが、自分には全く縁のない話だと思っていた。遠い外国での出来事のような…。それが現実に、しかも愛梨が?実際に?現実に?そんなことが…、現実に起きるのか?いや起こったのか?愛梨の身に…。信治もショックを受けたが、愛梨のことが心配で堪らない。大丈夫なのか?こんなこと、本人の口から喋らせて大丈夫なのか?止めなくていいのか?

「だんだん行為もエスカレートしていって、最初の頃に、酷く殴られて脅されて…。それからはもう、何をされても怖くて抵抗なんて出来なくて…。完全に全裸にされて、全身を舐めまわされた時には……、素肌の上を、ヘビやトカゲやムカデが、這いまわっているような、もの凄い、身の毛もよだつって感じでした。嫌悪感、不快感で、血の気がひいていく…、怖くて、気持ち悪くて気持ち悪くて、本当に吐きそうになって、必死に我慢して…、頭がおかしくなりそうでした。でも、身体が硬直して動かないんです…。私、継父に…されると、耳の奥がキーン、てして、頭の中で何かがワンワン鳴るんです。悲鳴をあげたいのに声も出ない…。全身に鳥肌がたって、怖くて怖くて…。」

愛梨は、ぽろぽろと涙を流し始めた。愛梨が泣いているのを見るのは、これが初めてだった。信治も思わず涙をこぼしそうになってしまう。愛梨は、涙ながらに、懇願するような視線を信治に送る。

「店長…、誰にも言わない?」

「言わないよ!愛梨ちゃん、絶対に、誰にも。言うわけないよ!」

「…、高1の時…、私ね、怖くて気持ち悪くて、固まったまま…、その…、チビっちゃったんです…。おしっこ漏らしちゃったんです…。布団の上で…。そんなにジャーって程じゃなくて、少しだったと思うんですけど…。そしたら継父が…、継父が…、大喜びで…、おしっこでびしょ濡れになった私の内腿やあそこを、口で、舌で…、夢中で貪って、舐めまわして…、ピチャピチャ舐めとって…、ゴクンて、何度も飲み込む音がして…。信じられない…、なんで、なんで?なんでそんなことを…、おしっこを…。」

愛梨は、思わず両手で顔を覆った。

「その瞬間、あまりのことに、私、顔から血の気が引いて真っ青になっていくのが自分でもわかった…。身体に力が入らない、入らないのに、自分の身体なのに、私の意志には関係なく、不自然に身体が固まって動けなかった…。いつものように、耳が…、耳がキーン、て。周りの音が聞こえなくなっていくんです。いつものように、頭の中で何かがワンワンと鳴ってた。目を開けているのに、真昼間なのに、天井が、暗くなっていった…。私、震えて、というか、身体が勝手に硬直して痙攣して、意識を失っちゃたんです。そんなに長い時間じゃなかったと思いますけど…。多分、1,2分。気が付いた時、継父は、私の股間に吸い付いていました…。愛梨、もっと出ないの?出して!て言っていました。そしたら、私、また気が遠くなって…。でもここで気を失っちゃったら、このままホントにやられちゃうって、必死に意識を保とうとしました。でも、あぁ、もうこれ以上は無理だ、我慢できないって…。このままでは、もう本当に時間の問題だ。すぐにホントにやられちゃう、私、おかしくなっちゃうって思って…。悲しくて、困り果てて、でもどうしたらいいかわからなくて…。」

愛梨は頭を抱えて下を向いてしまう。信治は、愛梨の性虐待の体験を聞き、その継父に対する激しい怒りを覚えた。同時に、目の前の少女が、痛々しくて痛々しくて…。そんな、まだ高校生、幼気な少女だった愛梨に、何てことをするのか…。再婚相手の子とはいえ、仮にも自分の娘に…。この子はどれほど傷ついたのだろう…。今もその傷は癒えていないに違いない。いや、これから一生、忘れることなんて出来るのか?信治は、思わず愛梨を抱きしめたくなる…。でもそれは、決して性的な意味ではなく、純粋に、傷ついた小鳥を庇護し、労わるような思いだった。

 

「変な対抗心だったのか、それともこのまま継父の物にされちゃうのが、どうしても嫌だったというか、あまりにも悲しかったというか…。とにかく別の男の子に、彼氏じゃなくても、好きな男の子じゃなくても、せめて同級生の男の子と、そういう体験をしたいっていうか…、しなきゃって思ったんです。それで…、当時、こんな変な私でも、言い寄ってきていた男子が何人かいて、その中から、適当にまともな子を、優しそうで大人しそうな子を、良さげなのを選んで…、エッチしました…。痛くて、辛くて、虚しくて、悲しかった。別にお金を貰っているわけじゃないけれど、私がやったことは母と同じなんじゃないかって、終わった直後は自己嫌悪と罪悪感でいっぱいになりました。でも後悔はなかった、変な達成感もあったんです。『初めて』を、継父に奪われずに、取り敢えず自分の意志で出来たって…。

 その男子とは、1回きりで、その後、彼氏になったとか付き合うとかにはならなかったんですけど…。よく考えたら、私、最低の女ですよね。相手の気持ちを分かったうえで、断れないっていうか、惚れた弱みに付け込んで、こっちの都合で1度だけして、やることやったらポイッて、捨てちゃうなんて…。これが男女逆だったら、とんでもない奴でしょ。最悪…。私、あの子に酷いことしたと思う。傷つけた…、本当に…、ごめんなさい…。」

愛梨は、眉間に皺を寄せ、キュッと唇を結び、悔しそうな顔、そして本当に申し訳なさそうな顔をした。自分のした行為そのものには後悔はないのだろう。でもその結果、誰かを傷付けた、それが悔しいのだろう。悔恨の想い…。高校時代の苦い苦い思い出…。

「ただ、1回しちゃうと、開き直れるというか、度胸が据わるというか、あ、逆の意味でですよ?それからしばらくして、何か継父に迫られても、だんだん拒否できるようになったんですよ。不思議ですよね…、それまでは、気持ち悪くて不快で、嫌で嫌で、でも怖くて震えて、身体が言う事を聞かなくて、金縛りにあったみたいに抵抗も出来なかったのに…。だから、変なきっかけでしたけど、それ以降、徐々に継父の悪戯は減っていきました。こんなことなら、最初から強く拒否しておけばよかったって、ちょっと後悔しました。」

愛梨は、少しすっきりした表情を見せた。この子の心の闇がどれほど深いのか、信治は少しだけ理解出来た気がした。そして、こんな大事な話を自分に打明けてくれた愛梨を、この上なく愛おしいと思い、少しだけ、愛梨の心に寄り添うことが出来た気がして、嬉しかった…。