3人の男 | PRO HUNTERのブログ

3人の男

2009年の夏、ある地方都市の居酒屋で、3人の男が顔を合わせました。

年齢は30代後半。

昔、大学の部活で一緒にがんばった仲間です。


一人目の男は、地元企業を選んだ男です。

長男ということもあり、仕事よりも地元で家族と一緒に過ごすことを優先しました。

会社自体は大手企業でしたが、転勤のない処遇を選択して、入社以来ずっと地元で暮らしています。

夕方の定時には会社を出て、家族と一緒に夕食を取り、気持にゆとりをもって毎日暮らしています。

子供もある程度成長し、幸せな暮らしに何も不満はありません。

ただ、最近少しだけ、単調な仕事に飽きてきて、自分はこれでよかったのかを考えるようになってきています。

そんな彼を支えているのは、長男として実家を支える自覚と日々の生活への満足感でした。


二人目の男は、世界を相手に仕事をしたいと考えた男です。

大手商社に就職し、海外での勤務も経験し、非常にやりがいを感じる仕事をしてきました。

今は帰国して国内の仕事をしています。

2人の子供はいわゆる帰国子女で、活発な子供に成長しています。

そろそろ中学受験を目指し、塾に入れないといけない年齢です。

やはり子供の将来のためには、できるだけよい学校に入れてやりたいと考えています。

今後の教育費もかさみそうですが、会社自体は以前に比べて収益性重視の施策を取っていて、部下の数はむしろ減り、自分の仕事の負担感が増してきています。給料も少し目減りし、海外駐在時のような手当てもつきません。

彼を支えているのは、自分と仕事へのプライドでした。


三人目の男は、独立起業を選んだ男です。

大学卒業後、いったん企業に就職しましたが、最初から3年後には起業しようと考えていました。

IT分野での起業を考えていましたので、最初に就職したのもIT系の上場企業です。

Web関連の技術とノウハウを習得し、予定通りにIT関連事業で起業しました。

東京にオフィスを構え、順調なスタートを切りました。

しかし、独立してまもなく、いわゆるITバブルもはじけ、激戦の時代に入りました。

モバイルのCRM関連サービスを提供していますが、動画配信やクーポン機能など競合企業は皆同じようなサービスを展開していて、なかなか差別化が難しく、価格競争のようになってきています。

業績も厳しくなってきました。

独立性を維持しながら新たに資本増強をしたいとは思いますが、なかなか簡単にはいきません。もしかしたらどこかの企業グループに入る方がよいかも、と思い始めています。

そんな彼を支えているのは、縛られない自由な業務スタイルと独立の気概です。


そこへ四人目の男が現れました

「先輩!!」

大学時代の部活の1学年上の先輩です。

あまり目立たない人でしたが、誠実な人柄で後輩には慕われていました。

「先輩は、東京で仕事しているんじゃなかったんですか?」


先輩はどうやら仕事の出張で地元に来ているようでした。

話を聞くと、先輩は大学を卒業後に中堅メーカーに就職しましたが、3年前に独立したということでした。

メーカーの営業をしていた時に得意先の人から独立を勧められ、思い切って独立したそうです。

小さな卸売業を始めたのですが、最初は順調だったもののなかなか持続することが難しく、いまは自分ひとりで同じ事業を続けているとのことでした。

ただ、その仕事はボリューム的には週3日くらいしかかからないようで、最近はある企業からの紹介で、ベトナム向けに食品を輸出したい企業のアドバイザリーをしていました。メーカー時代にベトナムの市場開拓をした経験が活きました。自分のスキルと経験が他の企業の高く評価され、報酬をもらえる喜びも感じ始めていました。

月に1回はベトナムに出張し、昔の人脈を維持できるのも大きな収穫です。


3人にとって先輩の話は新鮮でした。

「で、なんでここに?」

「ああ、最近市役所の関連で地元活性化のための仕事をしてるんだ。月に2回くらい帰ってきてるよ。」


先輩は今の2つの仕事で十分に満足でしたが、でもまだ何か足りないと考えていたようです。

それが、「社会への関わりや貢献」ということだと気づくのに時間はかかりませんでした。

東京に出てきて、家庭を持ち独立もして、厳しい時期もあったがやりがいのある毎日を過ごしている。

でも、子供の成長や両親の老いていく状況、自分の故郷に関するニュースなどを見ているうちに、何か自分も地元の活性化に貢献できないか、地元への関わりを通じて社会への貢献が少しでもできないかと考え始めたそうです。どうせなら自分の故郷の役に立ちたい、そう思うのは自然なことでした。

そう考え始めた頃に、先のベトナムの仕事を紹介してくれた会社から、地元の市役所や企業団体が取り組もうとしている新しい企画の話の打診があったそうです。

かなり手弁当に近い仕事ではありましたが、いろんな立場の人達と故郷のために一緒に取り組める機会に非常に魅力を感じました。個人的なことですが、仕事で帰郷した時に両親に会えることと、この仕事をしていることに両親が非常に喜んでくれるのが嬉しかったそうです。初めて両親が自分の仕事のことを理解してくれた、そう思ったそうです。

そのようにして、先輩は時間をやり繰りして、2週間に1度はその仕事のために戻ってきているのでした。


「・・・・・・・・、そんなのありなのか?!」

3人の男は思いました。

「もっと詳しく先輩に聞きたいけど、いまはちょっと聞けないなぁ・・・、後日メールで聞こうか・・・・」


「先輩、連絡先教えてください!」

3人の男の声が重なりました。


以上