息子が高校3年生の頃


秋に文化祭があり、夫と一緒に見に行った。



夫はそこで、廊下に貼り出されていた

【大学合格者数】に見入っていた。



《どこの大学に何名合格しました》


という貼り紙だ。



それを見た夫は言った。


「え?この学校でトップクラスじゃないと、これらの大学群に合格するのって、無理じゃない?」



昨年度の東京一工の合格者数は、学年の約1割だったというその貼り紙を見て、そう言った。



そんな事はもう分かっているし、私としてはもう


《息子の希望する学部学科で、国公立大学であれば、どこでもいい》


という気持ちになっていて、

夫の驚きに近いその呟きに「いまさら・・・」と思ったが


「そうだね」

とだけ努めて冷静に答えた。



東京一工に拘りは、ない。

高校に入学した時は「もしかしたら」と期待もしたが、もう捨てた。


大学受験そのものが難しいとも感じていたが、


とりあえず大学に入れれば、という気持ちだった。



息子が大学受験だと言うのに

親として、情け無い限りだが、


これ以上期待し過ぎても、息子が苦しむだけだとも思っていた。




もしかしたら

この時に一番問題だったのは


夫婦間のコミュニケーションの欠如だったかもしれない。



私は夫が怖くて



息子の問題行動も

息子の苦しみも


夫に何も相談出来ずにいた。



その状態のまま、息子は大学受験という大きな人生の転機を迎えていた。