夫は同じ会社で35年勤続している。
恐らく
会社が倒産しない限りは、
あと数年で定年退職を迎えるまで
働き続けるだろう。
大学を卒業して、バブル絶頂期の就職だった。
就職してからは、海外出張も頻繁にあり
しかも一度行くと一ヶ月くらい帰ってこなかったりした。
好きな事、大学で学んだ事
それを仕事にし
余暇も充実していた。
そんな中で、私達は結婚をした。
2人とも仕事をしていて
当時は家事も分担して生活していた。
連休にはよく旅行にも行った。
毎日がとても楽しかった。
子どもが生まれてから、育児に専念するため
私は一旦仕事を辞めた。
我が家の収入の柱は、夫の給料の一本になった。
私はその頃の夫の顔をよく思い出せない。
息子の育児に必死で
目を離すと「死に向かう」ような行動をする息子に振り回されていた。
そのうち、
2人目も生まれ家族が増えたので
大きな車を買った。
庭の広い家を買った。
その間も夫は黙々と働いていた。
仕事の愚痴など聞いた事がない。
我が家の大黒柱だった。
今でも、そうだ。
家族の生活と、子供達の高額な学費を、全てを支えてくれているのだ。
先日、夫は私に言った。
「こんな事を言うのは、絶対に許されない事だと分かっている。」
と、前置きをした後で
「自分の事だけ考えてばいいというのは気持ちが楽だ」と。
夫もまた、見えない重圧に耐えていた。
子ども達が受験シーズン中は、先が見えなかった。
県立か私立かで高校にかかる金額は大きく違うし
国立か私立かで大学にかかる金額も大きく違う。
先が見えないからこそ
子ども達の選択肢を狭めないように、と
必死に働いてきたのだ。
今では
家のローンも終わりが見えてきた。
息子の学費も払い終えた。
これからとてつもない大きな買い物が控えている、という事もない。
老後の心配は尽きないが。
子ども達が大学を卒業して就職して
自分の食い扶持を自分で稼ぎ、
自立して生きてゆけば
それだけで充分だ。
結婚して30年近く経って、今さら
夫の背負っていた荷物の大きさに気がつくなんて
私は妻としても失格だ。
