台風が近づいていた。
前線の活動も活発になり、大雨が降っていた。
そんな日の朝、
大学生の娘が身支度を整えている様子を見て、夫が私に話しかけた。
「娘ちゃん、大学に行くの何時?」
「駅まで俺が送ろうか?」
夫も私も、出社時間は同じ7:30だ。
普段子ども達は大学の授業がある日は
駅まで自転車で行き、電車に乗って行くのだが
その日は大雨だったので
私が出社前に子ども達を車で駅まで送る事になっていた。
朝食の準備や食器洗い
トイレ掃除、風呂掃除
ゴミ出しなどなど、、、
家事でバタバタしていた私は
夫の申し出をありがたいと思った。
「そろそろ息子君も起きてくると思うから、、、」
と私が言いかけた、その時
夫の顔が凍りついた。
それまで柔和だった表情が
息子の名前を出した途端に、一変した。
私はその夫の一瞬の変化を見逃さなかった。
《娘は送ってもいいけど、息子は送りたくない》
夫の顔は、はっきりとそう言っていた。
夫が何か言う前に私はそのまま話を続けた。
「子ども達2人とも私が駅まで送るから、大丈夫。」
そう言うと夫は
「分かった」
とだけ言ってソファーに座り、テレビを付けた。
「息子も一緒に子ども達の送りをお願いね」
と本当は言いたかった。
でも、それを言ったら
夫の息子への悪口が始まってしまうと思った。
朝から聞きたくないと思った。
いや、朝とか夜とか関係ない。
父親が実の息子の悪口を言っているのを聞きたくないのだ。