はじめに
毎年、お彼岸の頃、9月の秋分の日あたりに、日本各地の動物園で、「動物慰霊祭」が開催されています。
動物園では、希少野生生物の保全のためや、来園者への動物たちの素晴らしさを知っていただくべく、動物たちを
大切に飼育しています。
しかし、命は必ず終わりが来るものです。
彼らが居たことで、野生生物の保全に貢献したり、その動物をより理解する上で大切な役割を果たした
個体も少なくありません。
慰霊祭は、園によって多少の違いはありますが、動物園で暮らし、この世を去った動物たちへの哀悼と感謝の意を込めて、
開催されている点は共通しています。
今回は、私にとって最も身近な、名古屋の東山動植物園の動物慰霊碑と、
ここ一年で亡くなった代表的な動物たち5種5個体をご紹介いたします。
巨木の下に佇む、鎮魂の碑
正門をくぐり、インドサイやアジアゾウを通り過ぎ、カンガルー舎の右手、ライオン舎に向かう途中に、
巨大なソメイヨシノの下に、動物慰霊碑があります。
賑やかな園内では一際静寂に包まれた場所。ゾウとライオンのレリーフが特徴的な慰霊碑です。
昭和39年(1964年)、前年に亡くなった、園の人気者だったアジアゾウ(Elephas maximus)のマカニーとエルドが
埋葬された場所に建てられました。
東山にとってマカニーとエルドは戦争を生き延びた数少ないゾウで、戦後の復興期で多くの人たちに希望を与え、
彼女たちを見に全国各地から「ゾウ列車」という特別列車が運行されたほど大切な存在でした。
毎年9月のお彼岸の頃に、この慰霊碑の前で飼育員さんやお客さん、名古屋獣医師会が集まり、
慰霊祭がおこなわれます。
祭壇にはお供え物や献花、1年で亡くなった代表動物の遺影が飾られます。
写真は2016年の慰霊祭。雨天は園内の動物会館でおこなわれます。
ここからは今年の代表的な動物たちをご紹介いたします。
1.チンパンジー(Pan troglodytes)(亜種:ニシチンパンジー(Pan troglodytes verus))
愛称:ローリー(メス、1970~2021 1. 23)
1970年(推定)、アフリカの野生生まれで、50年近くの長きにわたって東山で過ごしてきた彼女。
群れの中ではメスの中では順位が一番高く、メスのリーダー的存在でした。
(群れ自体のリーダーは、オスのリュウ(1997~)。)
現在の群れのリーダーのリュウが母を亡くした時は、代わりに養育行動をしたり、2010年に、カズミやアキコが来園した時は
群れへの橋渡し役をするなど、高齢ながらも群れにはなくてはならない存在でした。
2018年に完成した現在の獣舎に移動してからも、のんびり穏やかに過ごしていました。
2017年に誕生した双子のカランとコエにも、優しく接しており、良き遊び相手になっていました!
2.フクロテナガザル(Symphalangus syndactylus)
愛称:マツ(メス、1988~2021 1. 23)
オスのケイジ(1985~)と共に来園し、長年暮らしていました。ケイジとはとても相性が良く、
いつもそばに居る姿や、園内一帯に響き渡る鳴き交わしが今でも印象に残っています。
今でこそ有名になった、ケイジのア゛~!!という鳴き声に発展するのも、彼女とのデュエットがあってのことでした。
ケイジとの間には、1999年にメスのクロミが生まれています。(現在は到津の森公園(福岡県北九州市)にて飼育)
天気の良い昼間には、放飼場の手前にあるデッキでよく寝転んでいる姿も見られました。
3.コジャコウネコ(Viverricula indica)
愛称:小(メス 2011~2021 8. 4)
北園の自然動物館1階の夜行性動物エリア「スターライトハウス」の最後の部屋に、コジャコウネコが暮らしています。
日本の動物園で飼育しているのは東山だけ。それもあってか、動物園ファンの間では有名です。
スリランカから来園し、同時に来園したオスの大とはとても仲が良く、一緒に寝る姿などがよく見られました。
ガラス面の近くの休憩台で寝る小。スターライトハウスは開園の朝の9時~9時30分頃までは室内が明るく、
その時は彼らの本来の色や寝姿を観察できます!
小が亡くなり、現在は大だけが暮らしています。大には健康で更に長生きしてほしいものです。
4.アメリカバイソン(Bison bison)
愛称:由紀恵(メス 1998~2021 3. 25)
2002年4月16日に、メスの菜々子(1998~)と共に九州自然動物公園(大分県)から来園。
長年東山のバイソンの群れで生活してきました。
東山のバイソンたちには、日本の芸能人や有名人から名前が付けられています。由紀恵もその1個体でした!
他の個体とは、角が折れてかなり短くなっていたことや、目元が目立つことで識別できました。
他の個体に食事をとられてしまうことがありましたが、マイペースな性格で穏やかに暮らしていました。
他の個体に食事をとられてしまうこともあり、別スペースで食事をとってもらうこともありました。
5.メキシコウサギ(Romerolagus diazi)
オス (2014 8.3~2020 10.5)
メキシコの首都、メキシコシティ付近の火山帯の標高2000~3000mの草原地帯に生息する小型のウサギ。
日本で飼育しているのはここだけで、2013年に名古屋市と姉妹都市のメキシコシティのチャプルテペック動物園から寄贈されました。
後に国内初の繁殖にも成功しています!
このオスは2014年に繁殖した個体で、2019年、北園に獣舎が移転してからは、唯一の公開されている個体でした。
(それ以外の個体は公開スペース横の非公開用の繁殖スペースにいました。)
耳と体が小さい独特の風貌は、隠れた人気者でした。
放飼場には彼らの生息地を再現し、イネ科の植物が多数植えられていました。
しかし、彼が昨年10月に肺炎で亡くなってからは、2012年生の高齢のメスのみの飼育となっています。
白内障を患っているためバックヤードにて飼育され、現在はその姿を見ることはできません…











