2021年8月17日に亡くなったシャモアのモンブラン。

前回はシャモアについて、日本での飼育の歴史、モンブランの故郷、日本カモシカセンターをご紹介いたしました。

後編となる今回は、モンブランとその両親のカモシカセンターと移動先の多摩動物公園での生活、そして、国内の偶蹄類に迫る危機

についても紹介いたします。

 

1.日本カモシカセンターでの暮らし

モンブランは、2006年5月22日、日本カモシカセンターで生まれました。性別はオス。

父親は、ヤックル(1998年6月19日生)、母親は、アルプス(2002年5月19日生)です。

 

モンブランの誕生がセンターにとっては4年ぶりの繁殖だったそうです(モンブランの前に生まれたのが母のアルプスとのこと)。

 

幼い頃の彼は、母親のアルプスとセンターでも一際広い放飼場で暮らしていました。

幼い頃のモンブラン(右)と母のアルプス(左)。

 

この頃は立派な角はまだ生えておらず、アルプスの後ろをついていく姿や、一生懸命走って追いつく姿など、

母にべったりな愛らしい姿を見せてくれました!今でも鮮明に覚えています。

小さいながらも高低差のある放飼場を駆け回る、身軽さや素早さからは逞しさも感じられました!

 

一方、父親のヤックルは、野生では繁殖期以外ではメスとこどもの群れとは別行動するオスの暮らしぶりゆえ、

アルプスとモンブランの隣で、単独で生活していました。

 

 

ヤックルは、アルプスとは、角の見た目で識別することができました。

真正面から見ると、角の間が広く、横に広がっているのが大きな特徴でした。

 

他に、ウォーター、ウォーク、ドリームのオス3個体は、モンブランたちとは離れた別の放飼場に、

1個体ずつ暮らしていました。

 

2006年11月30日、日本カモシカセンターが閉鎖され、モンブランと両親は、閉鎖前の10月に多摩動物公園(東京都日野市)に

引き取られることが決定しました。

その時はなかなか輸送箱に入らず難航したそうですが、ゴンドラで下山し、住み慣れた三重の地を無事後にしたのでした。

 

2.多摩動物公園での暮らし

無事多摩動物公園に到着しましたが、放飼場の整備等で公開されたのは、2008年5月。

アジア園のゴールデンターキン舎横に、新たにシャモアの放飼場が完成し、公開されました!

多摩動物公園のシャモア舎。(2017年8月15日撮影)

 

山岳地帯で暮らす彼らのため、放飼場には急斜面が用意され、彼らの能力が発揮されるようになっていました

ふもとに東屋があり、食事場にもなっていたため、そこで休息したり食事をする彼らの姿を観察することができました。

 

公開当初は、それぞれ別で飼育されていて、繁殖期になるとヤックルとアルプスのペアリングなどがおこなわれていたそう。

しかし、ヤックルは2011年、アルプスは2012年に亡くなり、モンブランを残すのみになってしまいました

 

3.11年ぶりの再会

モンブランたちシャモアファミリーが公開されたことを聞き、機会と時間があれば訪れたいと思っていました。

ヤックルとアルプスは既に亡くなり、彼が国内唯一かつ、最後のシャモアになってしまったため、

生きているうちに会いたいと思う気持ちがより一層強まりました。

 

センターが閉鎖されて約11年後、2017年8月15日に初めて多摩動物公園に足を運びました!

 

正門をくぐり、様々な動物を見て、ゴールデンターキンを過ぎると、彼の姿がありました。

センターが閉鎖されて11年、そこで見た彼は立派な成獣へと成長していました!

閉鎖後、各地の園に引き取られたカモシカたちですが、訪問時では、彼以外では京都市動物園にゴーラルのホンホン(2004~)、

横浜市立金沢動物園にシロイワヤギのペンケ(2001~2020)を残すのみになってしまいました。

(ゴーラルのホンホンについては、過去の記事で詳しく紹介しております。)

 

そのような現状もあり、多摩での彼の姿を見られてとても嬉しく思いました!!

 

 

暫くすると、駆け下りてきて手前の方に来てくれました。

木の葉などの食事は来園者が見やすい位置に置かれており、間近に食事の風景を観察することができました。

 

 

 

左の角は遊んでいる時に折れてしまったようですが、もう片方は立派に成長し、

ヤックルやアルプス譲りの立派な角になっていました!

 

 

ある程度食事が落ち着くと、東屋に移動し、反芻をはじめました。

多摩の地でもゆったり落ち着いて過ごせており、元気な姿が見られて嬉しい限りでした。

 

それからも、機会あれば再び訪れて、彼の姿を見たいと思っていましたが、

残念ながら、2021年8月17日に亡くなってしまいました。死因は肝不全と臼歯の摩耗とのこと。

 

私が再会した時点で既に11歳。亡くなった時点では父のヤックルの寿命も超えていました。

山岳地帯とは異なる多摩の環境でしたが、これだけ彼が生きることができたのは、多摩の環境の良さや、

飼育員さんによる手厚いケアの賜物だったと思います。

 

東京ズーネットには、彼の亡くなるまでの経緯が詳しく記されています。

詳細は以下のリンクからご覧いただけます。

 

4.偶蹄類たちの危機

モンブランが亡くなり、国内ではシャモアを見ることができなくなりました

世界的に見ても、ヨーロッパの園館ぐらいしか飼育されておらず、ヨーロッパやEAZA(ヨーロッパ動物園水族館協会)の加盟園の

飼育動物を検索できるサイト「Zootierliste」によると、亜種のアルプスシャモア(一般的で個体数多い種)で、

ヨーロッパ全体で約50園ほどしか飼育されていないそうです。

詳細は以下のHPからご覧いただけます。

 

元々日本から離れたヨーロッパの山岳地帯に生息するシャモア。日本人には馴染みがないのと、

神経質な面があり、飼育は容易で無かったと思われます。

そんな時、ニホンカモシカの繁殖の実績をあげていたカモシカセンターがニホンカモシカとの交換で導入し、初渡来しました。

(飼育種の充実が園のステータスとして見なされていた時代背景もあると思われます。)

 

元々山岳地帯で暮らす彼らにとって理想的な環境で、順調に飼育され、繁殖もしました。

 

ただ、2001年にアメリカでのBSE(牛海綿状脳症)の発生で、偶蹄類の動物の輸入が禁止、可能になっても検疫の手続きが煩雑

であること、マニアな方は好きでも、一般受けしにくいカモシカを、他のスペースを割いてまで新規導入しない園がほとんどでした。

さらに、将来を見据えた個体群管理が十分におこなわれていなかったこともあり、シャモアをはじめ、様々な偶蹄類がこれまでに姿を消しました。また、現在の代で絶える可能性が極めて高い種も数多くいます。

トムソンガゼル(Eudorcas thomsonii)。2020年、富士自然動物公園(富士サファリパーク)の個体を最後に絶滅。

東アフリカのサバンナでは一般的なガゼルで、かつては天王寺、豊橋などでも最近まで飼育されていました。

 

シフゾウ(Elaphurus davidianus)。中国原産のシカ科で、一時は野生絶滅したのを動物園の飼育個体を野生復帰して、

個体数が回復しつつあります。かつては幾つかの園で飼育されていましたが、現在は多摩、安佐、熊本の3園で合計6個体しかいません。その多くが10歳以上と高齢化しており、現在の代で絶える可能性が高い種の一つです。(写真は安佐の「アスカ」。(熊本生まれ))

 

こうした偶蹄類は、人気の種よりもあまり注目されないことも多いです。

シャモアは、多摩が国内唯一の飼育になってから、それまで以上に注目されるようになったと感じています。

 

国内での存続も見込めない状態ではありましたが、皮肉なことに、それを機に彼らのことについて注目してもらえたというのもあります。

生息地が遠く離れたヨーロッパの山岳のシャモア、彼らを実際に見る機会があったことで、シャモアや偶蹄類、彼らの過ごす環境などへの興味を持たれた方がいるのであれば、ある意味動物園で飼育していることの役目のひとつを果たしたのかもしれません。

 

先程述べたように、偶蹄類の中には国内で見られなくなる可能性の高い種が多くいます。

まだ存続可能な種については、個体群管理などがしっかり行き届き、これからも日本で見られるようになって欲しいです。

その見込みがない種でも、情報発信などを通じて、生きているうちに、彼らの魅力などがより多くの方に伝わることを願っています。

 

このご時世の中、気軽に外出するのは難しいかもしれませんが、お近くの園にいたり、気になる種や個体がいるのであれば、

今のうちにぜひ会いに行ってみてください!