女性Aの同僚達は女性Bと部長Cの距離が近いことを気にしていた。
女性Aの同僚の一人である女性Dが自身のSNSに「うちの会社の部長Bと女性A、社内不倫に違いない!!」と投稿した。女性Aは女性Bと部長Cが2人で仲良く食事をしている姿を目撃したことがあることから、女性Dの投稿に同調して「確かに怪しい!」と自身のSNSで投稿した。
後日、これに激怒した女性Bは「どうしてこんなことを書き込んだのか。」を問い詰めるも、女性Aは「自分は女性Dの投稿に賛同しただけだ。」と反論する。だが、女性Bは怒りが全然収まらず、「賛同することも違法である以上、慰謝料を払ってもらう。」と告げる。
果たして、果たして、ネットの書き込みに賛同しただけなのに、慰謝料を払わなければならないのか?
北村弁護士の見解:慰謝料払う
「まず、最初に投稿した人が、社内不倫に違いないと書いています。これは人の名誉を毀損しています。「確かに怪しい」は、前の「社内不倫に違いない」を受けた言葉であることは、誰が見てもわかります。すると読んだ側は、1人だけが疑っているのではなく、他にも疑っている人がいるのだと印象付けることになり、中傷された人の評価はどんどん下がっていくことになります。非常に悪質です。「いいね」との違いは、コメントした人がいいのか、中身がその通りだと言っているのかわからないので、名誉毀損になりません。」
大渕弁護士の見解:慰謝料払う
「最初の書き込みが「社内不倫に違いない」と言っていて、そのあとに「確かに怪しい」と言っていることは、ほぼ同じ内容を表現しているのです。表現内容が同じですから、ほぼ変わりない違法性を備えていると思います。」
本村弁護士の見解:慰謝料払う
「「確かに怪しい」は、「社内不倫に違いない」を受けて、事実を肯定、補強する内容のコメントになっています。ですから「確かに怪しい」自体、名誉毀損にあたると考えます。」
北村・大渕・本村弁護士の見解は合理的。但し、これは「女性Bと部長Cが不倫関係にないこと」が大前提。逆に女性Bと部長Cが不倫関係にあるのであれば、慰謝料を払う必要はない。北村弁護士が指摘している通り、女性Aの「確かに怪しい」は女性Dの投稿である「社内不倫に違いない」を受けたコメントであることは誰の目から見ても明らかである。この事実を踏まえれば、当然、「女性Bや部長Cの不倫を疑っているのは1人だけではないのだ」と言うことを強く印象付けることになり、言われた側の社会的評価はどんどん下がることになるため、極めて悪質であると言える。不倫を疑うことは問題ないが、それをSNS等の他人の目に容易に見えるような形で公表したり、それに同調することは厳に慎まなければならないと言えるだろう。
菊地弁護士の見解:慰謝料払わない
「「確かに怪しい」はただ単に付和雷同的、野次馬的な感想なのです。社会のどこにでもある事で、それを一つ一つ全て悪いとしていたらキリがないということです。」
菊地弁護士の見解は理解に苦しむ。この見解は女性Bが全く知らない、誰だか分からない赤の他人の第三者が投稿したと言うことであれば、成立する可能性も十分有り得るだろう。しかし、本件の場合は会社の同僚と言う身内の人間がしたことなので当然、その事実はバレる可能性も高くなる。そうなると「付和雷同」や「野次馬」と言う言葉で片付けられるような問題では済まされない可能性の方が高い。勿論、これは上述の通り、不倫が事実無根であることが大前提であり、不倫が事実であれば慰謝料を払う義務はないと考えてよいのではと思う。