今回の相談者は女性A(63歳)。3年前に夫は他界し、10年前に拾った雑種の犬が唯一の家族である。
ある日、その犬と散歩に出掛けた時、血統書付きの高級犬と散歩をしていた女性Bと出会う。
しかし、工事現場の職人Cが鉄板を落としてしまい、女性Aと女性Bにけがはなかったものの、2人が飼っていた犬にその鉄板が当たってしまい、2匹共死んでしまったのだ。
職人Cはすぐさま謝罪に現れる。女性Bは「これは血統書付きの高級犬で80万もした犬なので損害賠償と購入費を払ってもらう!」と言うと職人Cはこれに応じた。一方、女性Aの犬については「これは雑種だから5000円程度で大丈夫ですよね?」と職人Cが尋ねるも女性Aは激怒して「冗談ではない!唯一の家族を失ったのだから同じ額(80万)払え!」と主張。
果たして、女性Aは高級犬と同じ80万を受け取れるのか?
北村弁護士の見解:20万円
「ペットというのは物です。これはもう変わらないです。なくなってしまったとなると物の交換価値、物の価値。まず物損として賠償しなければなりません。これは5千円とか数千円とかいうレベルだと思います。雑種の場合は。他方で今の時代は一般にペットを可愛がっている人が多くて、一般にペットを飼おうっていう人たちは大変なショックを受けるということは裁判所も認識していますので、それについての精神的ショックも賠償すべきだっていうのが現在の考え方だろうと思います。
- 本村弁護士の見解に対して -
「本村弁護士がたった一ついいこと言ったのは犬と人間はコミュニケーション感じますよね、人間側が。だから喪失感はそれだけ大きい、その通りだと思います。」
大渕弁護士の見解:20万円
「はい、慰謝料の金額は飼育の期間とか飼育対応、加害者の対応など様々な事情を考慮して決められるんですけれども、本件では10年間息子同然にかわいがていたという事例ですので、ちょっと高めの水準の20万円が相当だと考えられます。」
北村・大渕弁護士の見解は少々情が入り過ぎている感がしないでもないが、それなりに合理的。やはり、10年間家族同様に育ててきたペットを失う喪失感は相当のものであると言うことは容易に想像出来る。ただ、個人的には慰謝料の額が少々高い気がしないでもない。
菊地弁護士の見解:1万円
「拾ってきたということでは交換価値0で取得しているわけです。しかも10年経って成犬でそうとうな年でしょうから、これ客観的な交換価値で言ったら0です。だから問題は、どれだけ愛情的な部分を見るかなんですけれども、たくさん可愛がった人にはたくさん払わなきゃいけません。冷たかった人にはそうでもないっていうようなことになると、賠償額がこんなんなってしまう。こういうことがあると、みな「いや、私は可愛がっていたんだ。」「いや、私は家族同然に」
みんなこう言えば高くなっちゃう。これは法廷はグチャグチャになっちゃいますからね。冷たいようですけれども、法律の世界では交換価値として把握するしかない。僕は犬は大好きですよ。今のVTRに出てきた犬は私の前に飼っていた死んだ犬にそっくりですから。私もうわっと思いましたけどもね、これは客観的な世界で冷徹に我々は判断しなきゃいけないんです。」
菊地弁護士の見解は法律に則って考えると合理的。犬は法律上、「物」である。また、女性Aが飼っていた犬は購入したのではなく、拾ってきたもの。となると交換価値や財産的損害は0になっても致し方ない。ただ、この犬を10年間も家族同然に買ってきたと言う事実を考えると厳し過ぎる感も無きにしも非ずである。それが法律の世界だと言われてしまったらそれまでではあるが。
本村弁護士の見解:5万円
「みなさんと考え方としては同じですよね。拾ってきた雑種ですから財産的損害はやはりほぼ0なんですよね。問題は慰謝料なんですけれども、ペットの場合ですね、特に犬の場合は人間と高度のコミュニケーションをとることができますから、ペットが死んだ場合には飼い主の精神的な喪失感、これがかなり大きいという場合があります。そういう場合には慰謝料が認められる事もあると。今回の場合はやはり裁判所も慰謝料を認めてくれるんではないかと、金額的には5万円程度かなと思います。」
本件については本村弁護士の見解が最も理に適っていると言ってよいだろう。本件の場合は死んでしまった犬が雑種で尚且つ拾ってきたものとなると財産的損害や交換価値はほぼ0になってしまうのは致し方ない。故に今回の件は慰謝料でそれを清算すべき事案であると考えられる。問題はその額だが、個人的には10万円程度が妥当かと考えるが、本村弁護士の5万円程度の慰謝料となるのが現実的な落とし所だろう。