抗生物質に代表される従来の選択毒性に基づいた創薬姿勢からの脱皮を図り、生命体・生命現象をよりホリスティックに捉え、生体の恒常性を制御するという戦略に則って、有機合成化学・有機反応化学・有機構造化学を基盤にした基礎分子医薬化学を展開している。
具体的には、「再生医療を支援する生物応答調節剤の創製」という観点から研究を展開している。
疾病原因たる再生不良を正常化させることは、対症療法ではない真の疾病克服に直結するものであり、本来の理想的な治療像です。
「再生医療支援薬」という新たな医薬カテゴリーを確立することを最終目的としている。また基礎的側面として、ゲノム創薬に相補する、構造主義生物学的・非物質還元主義的な方法論を確立することを日々研究しています。
生物応答調節剤として遺伝子発現の制御剤に着目している。
核内受容体は重要なターゲット。
核内受容体研究は、内因性リガンドの同定に加え、核内受容体のリガンド結合領域における結晶構造の解明、転写制御に関与する共役因子の同定など、急速な進展を見せており、核内受容体を標的とした創薬化学の拡充は臨床応用の面からも強く求められている。 本研究室では、核内受容体の転写活性化における重要構造単位であるヘリックス12に対して、受容体アンタゴニストの結合様式が"Folding inhibitor"と"Misfolding inducer"の2群に大別できることを提案している。
これに基づいた構造展開を行い、、コレステロール・中性脂質代謝に重要な核内受容体であるファルネソイドFXRのアゴニストを、構造修飾によりアンタゴニストへと機能転換することに成功した。
同時に、我々が提唱した核内受容体の“リガンドスーパーファミリー概念”を踏まえ、受容体の各サブタイプに対して、同一の基本骨格からなるリガンド群の創製が可能であろうと考えた。
概念の適応として、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の特徴的サブタイプ選択的リガンド創製を実施している。
核内受容体リガンドの医薬応用は、言わば“遺伝子発現制御剤”という新たな医薬カテゴリーの確立に繋がり、小分子による遺伝子治療法の開発とも言える。先の「リガンドスーパーファミリー」概念は、核内受容体全般に対しても適用可能である。
ステロイド骨格は核内受容体内因性リガンドの代表的骨格であるが、ステロイド骨格は立体が複雑であり、合成展開上の多様性に乏しい。
構造多様性があり、系統的かつ容易に置換基導入が可能なジフェニルメタン骨格に着目した。ジフェニルメタン誘導体側鎖の適切な変換により、ビタミンD(VDR)・アンドロゲン(AR)・プロゲステロン(PR)・PPAR・FXRのアゴニストおよびアンドロゲンアンタゴニストの創製に成功しました。
このことより、ジフェニルメタン構造がステロイド代替構造になり得ることが示唆され、系統的な受容体選択的リガンド創製が可能となりました。