プロテインキナーゼC (CキナーゼまたはPKC、EC 2.7.11.13)は少なくとも10種類以上のアイソザイムから構成されるタンパク質ファミリーである。1977年 に西塚泰美 らによって発見された。PKCは、その構造、活性化機構、生理機能によって、在来型(conventionalあるいはclassical:α、βI、βII、γ)、新型(novel:δ、ε、η、θ)、非典型(atypical:ζ、λ/ι)の3つのサブファミリーに分類される。在来型PKCは主にカルシウム イオン (Ca2+)、ジアシルグリセロール 、あるいはホスファチジルセリン (PS) などのリン脂質によって活性化される。新型PKCはカルシウムイオン結合活性を失っており、ジアシルグリセロールによる活性化を受ける。ジアシルグリセロールは細胞膜、核膜の構成成分であるホスファチジルイノシトール (PI) からホスホリパーゼ Cによって産生されるため、在来型・新型PKCはシグナル伝達経路においてホスホリパーゼCの下流に位置する。一方、非典型PKCはカルシムイオンおよびジアシルグリセロール結合活性を持たない。在来型PKCの1種であるCαを日本では特にCキナーゼと呼ぶことがある。
[編集 ] 構造と制御
在来型PKCは、N末端側の調節領域とC末端側の触媒領域からなる。通常、PKCは調節領域に存在する偽基質領域による自己阻害作用のため不活性化状態で細胞質に存在し、セカンドメッセンジャー (カルシウムやジアシルグリセロール)によって活性化されると、細胞質に移行し基質をリン酸化する。 在来型PKCの調節領域には、連続した2つのC1ドメイン(ジアシルグリセロール結合ドメイン:C1AおよびC1B)とC2ドメイン(カルシウムイオン結合ドメイン)が存在する。新型PKCは、在来型と同様に連続した2つのC1ドメインを有しているが、在来型PKCのC2ドメインとホモロジーを有するC2 likeドメインはカルシウムイオンを結合しない。非典型PKCは1つのC1ドメインのみを有するが、ジアシアルグリセロール結合活性は失なわれている。すべてのPKCアイソザイムの触媒領域はATP結合ドメインとキナーゼドメインからなる。
例として、在来型PKCに共通する一次構造を示す:
H2N – 偽基質領域 – C1A - C1B - C2ドメイン – ATP結合ドメイン (C3) – キナーゼドメイン - COOH
[編集 ] 機能
PKCのターゲット配列はAキナーゼのものに似ており、リン酸化を受けるセリン/スレオニン残基の近くに塩基性アミノ酸がある。基質にはMARCKS(Myristoylated alanine-rich C kinase substrate)タンパク質、MAPキナーゼ 、転写因子 阻害タンパク質であるIκB、ビタミンD 3受容体(VDR)、Rafキナーゼ、カルパインや上皮成長因子受容体 (EGFR) があり、細胞内シグナル伝達において特に中心的な役割を担っていると考えられる。また、発がんプロモーター の主要なターゲットとしても知られている。 PKCはがん やアルツハイマー病 など様々な疾患に関与していることも明らかになっている。
[編集 ] Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ
EC 2.7.11.17。カルモジュリン(CaM)キナーゼとも呼ばれ、主にCa2+/カルモジュリン 複合体により活性化される。活性化に関して「記憶作用」、つまり活性化反応が終わっても活性化状態が長続きする性質がある。次の2つのタイプがある:
- 特異型CaMキナーゼ:例としてミオシン 軽鎖キナーゼ(MLCK)がある。これはミオシンをリン酸化して筋肉 を収縮させる。
- 多機能型CaMキナーゼ:CaMキナーゼIIとも呼ばれ、神経伝達物質 の分泌、転写因子 の制御、グリコーゲン 代謝 など様々な場面で働く。脳のタンパク質の1ないし2%がCaMキナーゼIIである。
[編集 ] 構造と自己調節
CaMキナーゼはN末端側の触媒ドメイン、調節ドメイン、および付随ドメインからなる。Ca2+/カルモジュリンがないばあいには触媒ドメインは調節ドメイン(基質に似た配列を含む)による自己抑制を受けている。CaMキナーゼはいくつかの分子が会合してホモオリゴマーまたはヘテロオリゴマーになっている。Ca2+/カルモジュリンによって活性化されると、CaMキナーゼ分子は互いにリン酸化しあう。これには2つの効果がある:
- カルモジュリン複合体への親和性が増し、キナーゼ活性の持続時間が延長する
- カルモジュリン複合体が解離した後も活性化が持続し、さらに持続時間が延長する