特殊詐欺に特捜隊 京都・上京署、結成翌日に逮捕
京都新聞 2015年12月29日(火)11時20分配信
相次ぐ特殊詐欺被害を未然に防ごうと、京都府警上京署が「特別捜査隊」を府内の警察署で初めて結成した。本来捜査を担当する刑事課だけでなく、生活安全課や交通課など5部署の署員で編成したチーム。発足した翌日に容疑者の男を逮捕するなど成果を上げており、引き続き、抑止対策に力を入れる。
特捜隊は、特殊詐欺とみられる不審電話が相次いだ際に出動する。金融機関で高額の金を引き出そうとする高齢者の有無や、周辺に不審な人物がいないかなど、捜査にあたる。
結成した11月25日は、京都市上京区の銀行で合同訓練を実施。隊員は、犯人にだまされて現金を下ろそうとする高齢者を説得する方法や、被害者にだまされたふりをしてもらって、現れた容疑者を取り押さえる手順などを確認した。
同日夜には、息子を装った男が区内の女性(75)方にかけた不審な電話をきっかけに捜査を開始。特捜隊は訓練した「だまされた振り」の手順を確認し、女性の協力を得て、現金を受け取りに来た横浜市の男(34)を詐欺未遂容疑で逮捕した。
府内では、架空請求や息子を装うオレオレ詐欺などの手口が目立ち、11月末現在、被害額は6億4900万円(前年同期比4億5千万円減)となっている。同署管内では5件1100万円(28日現在)の被害が確認されている。
特捜隊長を務める上京署の原口義和刑事課長は「犯人逮捕を積み重ねて特殊詐欺事件の撲滅につなげたい」と力を込めて話す。
<示談金詐欺>4人組が仕組んだ飲酒運転事故…同乗者脅す
毎日新聞 1月4日(月)20時54分配信
飲酒後に知人を乗せた車を運転して飲酒事故を演出し、示談金名目で現金を詐取したとして、奈良県警は4日、住所不定、無職、岡本孝司容疑者(20)ら4人を詐欺容疑で逮捕したと発表した。岡本容疑者は元近畿大生で「借金があり、金が欲しかった」と供述。県警は大学時代の知人らを狙い同じ手口で十数件、計1000万円以上をだまし取ったとみて追及している。
他の3人は、無職、辻本直飛(26)▽ガソリンスタンド店員、辻下正和(21)▽無職、上井健也(21)各容疑者=いずれも奈良市。県警によると、全員が容疑を認めている。
4日の再逮捕容疑は、岡本容疑者らは昨年9月、近大生の女性(21)と奈良市内の居酒屋で飲酒。岡本容疑者運転の車に女性を乗せ、路上で歩行者役の辻下容疑者に接触し、女性に「全員同罪だ。退学になる」などと言って現金130万円を詐取したとされる。上井容疑者は弁護士の息子、辻本容疑者は法律に詳しい人物をかたり、示談の相場を説明するなどしたという。
岡本容疑者らは同9~10月、同じ手口で近大生の男女ら5人から計3回約240万円を詐取したとして逮捕・起訴された。岡本、辻本両容疑者、または4人の組み合わせで犯行を繰り返していたという。
近大によると、岡本容疑者は昨年10月上旬まで農学部(奈良市)に在籍。未遂も含め学生13人が被害を申し出たが、飲酒運転を承知で同乗しており被害者側にも厳重注意した。重岡成・農学部長は「加害者、被害者が本学の学生だったことは遺憾。再発防止に努める」とコメントした。【塩路佳子、芝村侑美】
<マイナンバー詐欺>相談急増 41都道府県261件
毎日新聞 1月4日(月)12時22分配信
マイナンバー制度の導入に伴い、4日から生活保護の申請など地方自治体の窓口手続きの一部で個人番号の記入が必要になった。運用が始まった一方で、制度に便乗した詐欺被害が各地で相次いでおり、番号を聞き出そうとする不審電話も急増。警察庁は「手続きでお金がかかったり、個人情報を聞き出したりすることは絶対にない」と注意を呼びかけている。
番号通知が始まった昨年10月5日から12月21日までに41都道府県警に寄せられた相談は261件に上る。番号や家族構成を聞き出そうとする手口が68件と最も多く、金銭要求なども26件あった。
昨年12月1日昼過ぎ、宇都宮市内に住む60代男性宅には、首に身分証のようなものを下げた黒いスーツ姿の若い男が突然訪れた。「マイナンバーの手続きには相当時間がかかりますよ。代行するので手数料を払ってほしい」。男の説明を信じた男性は、現金8000円を手渡した。
マイナンバーカードの発行に必要な通知カードの遅配につけ込む手口もある。
高松市の女性宅には11月6日午前、青いひもの名札を下げたスーツ姿の2人組の男が訪れ「通知カードは届いたか」と質問。「料金を払えば2時間以内に通知カードを宅配便で送る」と続け、女性は1万5000円をだまし取られた。高松市では11月、同様の被害が他に2件あった。
通知カード自体が持ち去られた全国初の詐欺事件も起きた。兵庫県伊丹市で11月30日午後、60代の無職女性宅に2人組の高齢の女が訪問し、「マイナンバーの件でいただきに来ました」と通知カードの提出を要求。女性は家族5人分の通知カードが入った封筒を手渡したという。
警察庁や国民生活センターによると、電話や訪問で接触を図る手法が目立つ。実際の詐欺被害は5件だが、12月以降、相談件数が増えており、警察に届け出ていない被害も多いとみられる。【津久井達、池田知広】
査読システム乗っ取り 著者自身が審査する新たな手口、韓国・台湾で論文大量撤回
産経新聞 1月3日(日)12時30分配信
科学論文をめぐる新たな不正が近年、アジアを中心に問題化している。著者らが論文内容をチェックする第三者の査読者になりすまし、審査過程を乗っ取るという大胆な手口だ。編集作業のオンライン化に伴う弱点を突くもので、都合のいい査読結果を著者に販売する業者まで出現。学術誌側は不正対策の強化に追われている。
■身分を偽装、専門家になりすまし
科学者の研究成果が国際的に認められるためには、論文を学術誌に掲載する必要がある。名のある学術誌のほとんどは論文の信頼性を担保するため、採否を判断する際に専門家による査読を実施している。
査読では結論に至るデータの不備を指摘されたり、掲載に値しないと判断されたりすることも多い。1本でも多く論文を発表し、業績をアピールしたい科学者にとって、査読者は緊張を強いられる存在だ。
研究不正では2014年に発覚した理化学研究所のSTAP細胞論文のように、データを改竄したり、盗用したりするケースが歴史的にも頻繁に起きてきた。だが査読のシステムを乗っ取る不正は近年、新たに表面化したものだ。
この手口がいつ生まれたのかは不明だが、最初の発覚は12年、中国・貴陽中医学院に所属していた科学者が執筆したミニブタのクローニングに関する論文との説がある。同年には韓国の科学者による論文で同様の査読詐欺が発覚。30本を超える論文の撤回が生じ、大きな関心を集めることになった。
不正の手口は単純ともいえる。この科学者は、ネット上で誰でも取得できるメールアドレスを使って架空の専門家を偽装。論文を投稿する際、推薦する査読者の連絡先としてこのアドレスを学術誌側に提示した。編集者は偽の専門家とは知らずに査読依頼を送信。自分の論文に悪い点をつけるはずはなく、好意的な査読コメントが返信され論文は“合格”した。
■アジアで相次ぐ大量撤回
査読の「ハイジャック」ともいえるこうした不正はアジアの研究者に多いとされ、ほかにも複数報告されている。13年には台湾の屏東教育大の副教授だった男性が英セージ・パブリケーションズの学術誌に投稿した論文で不正が発覚、60本が撤回された。
このケースでは、130個ものメールアドレスが不正目的で作成されていた。査読の依頼は副教授やその仲間に送信され、論文は次々に受理された。撤回された論文の一部には、台湾の蒋偉寧教育部長(文部科学相に相当)も共著者として名を連ねていた。大きなスキャンダルとなり、同氏は14年7月に辞任を表明した。
■悪質な営利事業に発展
査読システムの乗っ取りは悪質な営利事業にも発展した。科学者の論文作成を支援する業者が、投稿段階になると好意的な査読コメントを著者に販売、査読詐欺を行うというものだ。独出版大手のシュプリンガーグループで、生命科学分野の学術誌を発行するバイオメド・セントラルなどが14年に報告した。学術出版の指針などをまとめる国際機関の出版倫理委員会(COPE)はウェブ上で出版社に対し、早急に対策を取るよう注意喚起した。
またエジプトの出版大手ヒンダウィでは、編集者自身が査読の不正に関与する事態も生じている。
■オンラインシステムを悪用
不正がはびこる背景には、編集作業のオンライン化がある。ほとんどの編集者は今日、査読者との連絡手段に電子メールを使っている。研究機関の所在地宛てに出す郵便物とは異なり、相手が偽者でもメールは届く。連絡先が中国で取得されたメールアドレスになっているのに、所属機関が中国国内ではなかったため編集者が疑念を抱き、不正が発覚した例もある。
学術誌の編集を外部の大学教授などに委託することも多く、作業を効率化するため簡単に専門家を検索し査読を依頼できるオンラインシステムを多くの出版社が利用している。台湾の研究者による不正は、このシステムを悪用して起きたという。オンライン化は実在しない偽の査読者をつかまされる危険が高まるということだ。
シュプリンガーは15年8月、10の学術誌で計64本の論文を撤回すると発表した。同社のウィリアム・カーティス副社長は取材に対し「査読者の身分確認の徹底が重要」との認識を示した。
カーティス氏は今後の再発防止策について「外部編集者に問題の重要性を認識させ、査読者の入念なチェックを支援している。編集委員による査読資格のチェックも強化しており、推薦査読者について研究機関のメールアドレスやスコーパス(世界的な文献データベース)のIDを要求している」と明らかにした。