2020/06/01日本経済新聞『米低格付け企業に逆風』より

 

信用力の低い米国企業の資金調達に逆風が吹いています。

コロナ拡大の影響で財務状態が一段と悪化し、これまで有力な資金調達経路となっていた証券化商品の利回りが上昇/価格は下落し、日本を含む世界の金融機関や運用会社が含み損を抱えてしまった結果、ここ10年で2倍超まで急拡大した証券化商品の市場が急速に縮小に転じてしまっているとのことです。この資産までは各国政府や中央銀行の支援が及びにくい分野であり、企業破綻の増加が危ぶまれてきています。

 

2020/06/01日経新聞より

 

米国ではローン担保証券(CLO)と呼ばれる証券化商品を通じて、保険会社や年金などの機関投資家の資金が低格付け債券に流れ込んでいます。CLOの組成の流れは、まず銀行が低格付け企業への融資を実行、そのローン債権を証券会社などの金融機関に売却、その債権の買い手は複数のローン債券を束ねてCLOにして投資家に販売していきます。企業の利払いがCLOの投資家の利益となります。

 

2020/06/01日経新聞より

この担保証券はリスクとリターンの程度によって数段階に分解され、最もリスクが高い無格付けの部分をヘッジファンドなどの運用会社が、格付けが中程度の部分を保険・年金などの機関投資家、安全性の高いAAA格は銀行が購入することが多くなっています。日本の農林中央金庫メガバンク保有額は計10兆円を超えているとも言われています。CLOの残高はこの10年で2倍以上に増えており、残高は約7000億ドル(約75兆円)にもなり、低格付け企業向けローン残高全体(1兆1340億ドル)の6割に相当と言われます。

 

この低格付け企業の借金依存体質はCLO投資家の存在に支えられていたとも言えます。今回のコロナショックでビジネス環境は一転し、小売り・外食やエネルギー企業などの経営が悪化、収入が減少し、利払いや元金返済が滞ってしまう企業が増加、こうしたことから格付会社もCLOの裏付けとなっている融資先企業の3割を格下げしたり、格下げ方向で見直したりしています。

 

低格付けのBB格の利回りは8%前後から一時は16%程度まで上昇、5月になっても12%強で高止まりしているようです。昨今のCLOの新規発行は例年同時期の6割減の水準で企業に資金が十分行き渡っておらず、企業のデフォルト率も3%と2015年以来、5年ぶりの高さまで上昇しています。

 

2020/06/01日経新聞より

 

米国経済は20年4-6月期が底(GDP成長率は前期比年率換算マイナス40%)と言われるほど経済状況が悪い中で、さらにデフォルトが続出すれば実体経済の悪化につながりそうです。

 

CLOは公的機関の「エアポケット」と言われる所以は、CLOは米国FRBの中小企業向け融資制度より大企業向けが中心であり、6月からの投資家向け資金融資でもAAA格の一部のCLOを買う投資資金となっていて、この対象は全体の1割に満たないとされています。

 

証券化商品の爆発はリーマンショックを思い起こさせますが、現在は当時ほどの何層にも渡る複雑な商品組成ではないようです。

とは言え、市場の縮小と投資家の投資意欲の減退によって、これまで簡単に資金調達が出来ていた低格付け企業も財務困難状況に陥って、もし金融システムにまで影響が及んでいくとすると、さらなる別次元の長期の経済低迷を想定しなければならなくなってしまうかもしれません。

 

2008年の金融システム破綻からの経済危機に、世界中がかなりの授業料を払って懲りていますので、(個人的には)現在の金融システムはかなり盤石に整備されていると思いますが、想定外のリスクは可能性はゼロではないことは気にかけておくべきでしょう。