アシモフ初の本格推理小説
書籍の整理を続けていると、買ったことを忘れていた本に出会うことがあり、なにか得した気分になったりする(もちろん、とっくの昔に支払い済みなわけだが)。こうした出会い(再会?)は、私の頭がそうとう耄碌してきていることの証左ともいえるわけだが、それでも、アイザック・アシモフが初めて手がけた推理小説のペーパーバックなんかが出てくれば、やっぱりうれしさは隠せない。(^^;
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アシモフは、ロボットものの長編小説『鋼鉄都市』とその続編『裸の太陽』によって、一見相性が悪そうに見えるSFと推理小説を融合させることに成功したとされているが、彼のミステリー志向は、作家キャリアのごく初期の頃から、そこかしこの作品のなかに見てとることができる。
彼のロボットものの短編には、ロボットが一見不可解な行動を起こし、どう考えても異常としか思えないのだが、実は、ロボットの行動原理を定めた、いわゆる "三原則" に照らせば、それは当然の行動であることが判明するといったタイプのものが多い。
悪評高い(だが、私はけっこう気に入っている)『暗黒星雲のかなたに』では、"反乱軍の星" のありかをめぐる謎を、ごくありふれた天文学的常識を出発点として解き明かしていくくだりがあるし、映画『ミクロの決死圏』のノベライゼーションでは、「プロジェクトを妨害していたのは潜航艇の乗組員のうちのだれなのか?」を示す手がかりの数々を、すべては手遅れかと思われるクライマックスに説明してみせている。そして、後年の『黒後家蜘蛛の会』シリーズで本格推理小説ファンの心をつかんだことはご存じのとおりだろう。
私がその昔、ハヤカワ・SF・シリーズで中上守訳の『銀河帝国衰亡史』(初期ファウンデーション三部作の第1巻)を読んだとき、巻末には伊藤典夫の解説があり、最後に著作一覧が掲載されていた。そこにはSF作品とは別個に、推理小説として2冊のタイトルが挙げられていた。The Death Dealers と A Whiff of Death である。
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大学卒業後だったろうか、あるとき洋書の古書の扱いで有名な神保町の泰文社を覗いてみると、アシモフのペーパーバックが数冊棚に並んでいた。1冊は小説であとは科学解説書だった。私が買えたわけだから、価格も安かったはずだ。残念ながら、科学解説書のほうは手放してしまったが、小説は今もしっかり手元に置いている。以下がその表紙と裏表紙だ。【注:以下の画像は、三脚や反射を抑えるための専用のガラス板などを使用せず、震えがちな両手で支えた iPod TOUCHだけで撮影している。画像のゆがみや照明の写り込みなどは、何とぞご容赦いただきたい】
専門家からはダサいのひと言で一蹴されてしまうのかもしれないが、私は、タイトルまわりのテキストをデザイン風にあしらった、この Lancer 版の A Whiff of Death の表紙が気に入ってしまった。
その後月日は流れ、海外作家の書誌情報も一段と正確さを増してきて、A Whiff of Death が、実は The Death Dealers のタイトルを改題したもので、両者は同一作品であることが広く知られるようになった。現在創元推理文庫から『象牙の塔の殺人』として刊行されているものだ。
そうなると、改題前の本も欲しくなってくる。だが、アメリカのアマゾンで見ても、さすがに、アシモフが手がけた初の本格推理小説とあってか、Avon 版の The Death Dealers はプレミアム価格がついていて下級市民の私には手が出なかった。だから、そんなものが、今になって私の雑多な書籍のなかから飛び出してくることなどありえないはずなのだが……(^^;
たぶん初版・初刷り(first printing)ではないので、私にも購入できる価格だったのだろう。届いた本は極めて状態のいいもので(古書店側でも、本の角を傷めないよう硬質プラスチックのカバーを付けてくれていた)、貧乏性の私はすぐさまビニールのプチプチ袋に収納し、大切に奥の方にしまっておいて、そのままずっと忘れてしまっていたらしい! (^^;
私は、本の豪華本とか特装本、あるいは初版本などにこだわるような愛書家とはほど遠い人間だけれど、こうしたペーパーバックの表紙は何度見ても見飽きないものだ。それにくらべて、邦訳の表紙画のしょぼいこと! どことなく Lancer 版のパクリっぽく見えないこともないけれど、これってなんとかならないものなのか……(^^;