三省堂書店神保町本店の紙カバー
「ホームズ君、ちょっと聞いてくれないか? 先月の終わりのことなんだが、三省堂書店神保町本店の1階にある総合カウンターでは紙のカバーをかけるのをやめて、入り口付近にさまざまなサイズに対応したカバー用紙を置くようになったんだよ。ところが、先日行ってみたら、店員に本を差し出すと『紙のカバーはおかけしますか?』と尋ねてくるんだ。例のカバー用紙を置いたコーナーはきれいになくなってしまっていた。なぜだろう?」
「逆に質問しよう、ワトソン君。三省堂が当初レジで書籍へのカバーがけをやめたのはなぜだと思う?」
「それは、店員の手間が省けて混雑時の客さばきに役立つからさ。用紙にかかるコストも節約できるだろうし」
「手間が省けるというのは大事なポイントだね。池袋のジュンク堂本店もそうだけど、神保町の三省堂本店も各階にレジは置かず、1階の総合カウンターでさばいている。だから、休日などで客が増えれば順番待ちの長蛇の列ができてしまう。カバー掛けがなくなればレジ担にとってもうれしいはずだ」
「だろう? だったらなぜレジでのカバー掛けが復活したんだ?」
「今回の新型コロナウイルス騒動で、来客数がいつもより少なかったから、カバー掛けを復活しても、レジでの客さばきが滞ることはないだろうね。でも、問題の本質はそこじゃない」
「もったいぶるなよ。どういうことなんだ?」
「別置きにしておいたカバー用紙が当初の予想、たぶん、その日売れた冊数以上になくなっていることに気づいてあわててストップしたのさ」
「まるでその現場を見ていたような口振りだが、まさか、その場でじっと見ていたわけじゃあるまい? もともと紙のカバーはいらないって人もいるはずだ。どうしてそんなに消費量が増えるんだい?」
「映画館に置かれているチラシのことを考えてみたまえ。律儀に必ず1枚だけ取る人もいれば、意図せずとも数枚持ち帰ってしまう人もいるだろう?」
「映画のチラシなら、それこそ、コレクション用とか、将来オークションに出品するためにとか、複数枚取っていく人はいるだろうけれど、書店の紙カバーの蒐集マニアがそんなにいるわけあるまい」
「でも、買った本にカバーをかけたがる人は多いだろ?」
「なんだか、どうどうめぐりみたいだな」
「ワトソン君、神保町の三省堂本店の周囲にはどんな店が多い? あそこは古書店街として有名だよね?」
「ああ」
「君がよく漁っているような、100円とか200円とかいった均一本の古本に紙のカバーをかけてくれる店は多いかね?」
「いや、まさか、君は……」
「動機は十分。手段も機会も『自由にお持ちください』なんだから、言うまでもないだろう」
「……」
※
ガイガー並みの、ホームズの根拠薄弱な迷推理(古本購入者主因説)はともかくとして、本当のところ、神保町の三省堂本店で書店オリジナルのカバー用紙のテイク・フリー制度が短期間でなくなってしまったのはなぜなんだろうか? 理由をご存じの方、ぜひご一報ください。でないと、ホームズの奴がつけあがってしょうがないので……(^^;